福島第一事故情報

原子力全般

事故から1年後の福島第一原子力発電所4号機を訪ねて

東京工業大学原子炉工学研究所・助教 澤田 哲生 氏 (さわだ・てつお)

1957年 兵庫県生まれ。専門は原子核工学、原子炉物理など。京都大学理学部卒業後、三菱総合研究所に入社。89年ドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員、91年より現職。『原子核工学入門(上・下)』などの著書がある。

── 事故から1年後の福島第一原子力発電所4号機を視察されたそうですが、どのようなきっかけだったのでしようか。

澤田 「福島第一の4号機が危ない」という噂が今年になってから特に強くなっていました。また、実際に福島のいわき市に避難している知人からも、現在、地元の人たちは「福島の4号機がこれから危ないぞ」という噂に恐怖を覚えているということを直接聞きました。
どうして今頃そんな話が出てくるのか不思議に思ったのと、3月22日に都内で原発国民投票を行うかどうかを論点としたシンポジウムがあり、その場で、前首相の菅さんの元秘書だという方から呼び止められ、「4号機の地盤が沈下している」と言われました。しかも、「全体が一緒に沈下しているのではなく、不等沈下である」と言うのです。東北電力(株)女川原子力発電所の場合、約1メートル沈下していますが、4号機の傾きの差は80センチもあるという内部情報を持っているとおっしゃられたんですね。そのような話は聞いたことがなかったため、「できれば現地を見たい」という希望をもっていました。
そんな折、東京電力(以下、東電)の関係者とお話する機会があり、「今、そのような話もあって、ぜひ現地をこの目で確かめたい」と話をしました。
それまで東電は、そのような噂に対して「不等沈下していない」という測定結果を公表していました。そのことは当然知っていましたが、うまく希望が通り視察が実現したのです。



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【4号機使用済燃料貯蔵管理プール前にて】(提供:澤田哲生氏)

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【4号機 クレーンでがれき撤去の作業中】(提供:澤田哲生氏)



4号機の建屋と使用済燃料プールの傾きがないことを目で確かめてきた

── 再度の地震で4号機の燃料プールが崩れて燃料が冷却できなくなると一部で言われていますが、実際はどのような状況でしたか。

澤田 4号機の使用済燃料貯蔵プールは、私が5階のオペレーションフロアまで上がったときは、水が満々とある状況で、ほこりなどが入らないように白っぽいビニールカバーがかけてありました。隅のほうに隙間があり、中が見えました。また、燃料交換をするときに原子炉本体、それからその真上の空間は水浸しになりますが、「原子炉ウェル」には、そのための分も含めて水が満々とありました。
また、80センチも傾いていれば、その場に立ったときにわかります。それと同時に、目に見える水面と構造物の間の傾きはありませんでした。測定結果によると、建物、床の上端から水面までの距離を4点くらいサンプリングして測ったところ、1ミリくらいの誤差しかないということです。つまり、4号機は全く傾いていませんでした。
問題は、一度、昨年の3月11日の巨大な地震の影響に加え、その後の水素爆発の影響も受けているということです。そのため、今後同じ程度の地震がきたときにどうなるのかという問題は残っています。
現在、4号機のプール自体は耐震補強がされ、さらに鉄骨やコンクリートによって補強がされています。この強さは、仮に3.11の1.5倍や2倍ぐらいの地震が起きても十分問題ない構造になっていると評価されています。
それともう一つ、冷却材である水がなくなりはしないかという恐れがあります。現在、冷却水をポンプで回して燃料を冷やしていますが、ポンプが止まってしまった場合、水温が徐々に上がり、蒸発し始めることがあります。
プールの水の量は、高さ4メートルの貯蔵されている燃料の上にその約2倍、つまり約7メートルの水が乗っています。その水が冷却ポンプの停止により減っていくには相当時間がかかります。条件によって違いますが、数日以上、1週間ぐらいはかかります。仮に冷却ポンプが故障しても、その間に修理できるか、できないかという問題になります。
現在、オペレーションフロアまで人が比較的容易に近づけるようになったため、万一冷却機能が止まった場合でも、以前に比べて修理することは、はるかにやりやすくなっています。そういう意味では、かなり安心感をもっていいのではないか、というのが実際に現場を見た感想です。



地震直後と比べ時間的な余裕があり、様々な対処ができるようになっている

── 仮に4号機の使用済燃料が冷却できなくなった場合、メルトダウンを起こす可能性はあるのでしょうか。

澤田 その点は非常に慎重に答えなければならないと思いますが、可能性で言えば、もちろんゼロではありません。要するに、仕組みとして最悪の状況が重なったときには、そうなる可能性がゼロではないということです。
福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)による報告書があります。この報告書の最後に、「不測事態シナリオの素描」という近藤駿介原子力委員長の名前で出された文書があります。そこには「まずそのようなことは起こらない」という前提の下ですが、万が一、使用済燃料プールの冷却材が減り燃料棒が露出したときに溶融し、溶融したものがコンクリートと反応したときにどうなるか、最悪の3乗くらいの状況を想定した場合にどうなるかということが書かれています。
その最悪の事態に至る現実性について考えなければなりませんが、燃料貯蔵プールの冷却系は、故障しても現在は修理しやすい状況にあります。
万が一、冷却系が故障し、プール自体が冷やせなくなったときには、コンクリートポンプ車か仮設のホースのようなものを引っ張り込んで、外から水を入れます。そのような対応ができることを考えれば、使用済燃料そのものが溶けて何かと反応するという最悪のケースは、極めて考えにくい状況だと思います。
頭の中では、そこがダメになり、ここもダメになりということは考え得るのですが、現実的に最悪のケースにまでいくかということは極めて慎重に判断しなければならないと思います。

── 再び大量の放射性物質が環境中に放出されることはありませんか。

澤田 「心配だ。まだ不安は残る」と言うと、きりがありませんが、実際にまだ4号機には発熱している使用済燃料があり、万が一うまく冷やせなければ溶ける可能性も持っている。そのような危険性をもったものと私たちは向き合っています。これが事実である限り、不安の源はあり続けるため、不安な気持ちは全くゼロにはできないのです。
現実的なことをゼロか1で考えるのではなく、科学的な知見を入れて、リスク、危険の源をきちんと評価することが重要です。リスク的な評価書を使えば、可能性はゼロにはならなくても、どのぐらい可能性が低いかという値が出てくるはずです。本来そのような安全評価を行い判断しなければならないと思います。
私が言いたいのは、万が一事象が進んだ場合でも、現在は手の尽くし方に多様性が増えていることと、3.11直後の1週間くらいの時間スケールに比べると、今は時間的にも余裕があるので、対処がしやすい状況にあるということです。

── 津波にさらされた燃料の輸送用キャスクは、どのような状況でしたか。

澤田 4号機の視察がメインでしたが、そのほかにもさまざまなものを見てきました。
1つが乾式のキャスクです。これは使用済燃料を輸送するときや、一時保管、貯蔵するときに使うもので、直径が3メートル弱、長さが6メートルぐらいある円柱形の物体で、中はステンレスやコンクリートです。一番外側はコンクリートになっており、その中に燃料集合体が入っています。それらは、乾式のため、水を使わなくても冷やすことができる空冷式です。4号機から少し離れたところにキャスクが数体以上置いてあるところがありました。
そのキャスクが置いてある建物自体が津波に襲われて、まだ建物の天井のあたりに昆布が引っかかっているような状況でした。津波と一緒に流れてきた自動車が建物に突き刺さっていたり、相当津波の威力を感じるような状況でしたが、そこに置いてあったキャスクはびくともしていない感じで、外からなでると、じんわりと暖かかったことを覚えています。
その後、福井県で行われた会議でキャスク設計の一部に携わったという方にたまたまお会いして、その話をしたところ、「キャスクというのは非常に頑丈にできているんです」と自信をもっておられました。
津波の威力は非常に甚大で、さまざまな建物を壊しましたが、逆にキャスクが非常に頑強にできているという現場の証拠にもなっていたのが、非常に印象的でした。
キャスクのほかに、もう1つ印象的だったのは、6号機に設置されている空冷式の非常用ディーゼルです。これは6号機の土台より少し高いところに置いてありますが、非常に有効に作用し、電源を共用している5号機も安全に停止しました。この空冷式非常用ディーゼルは、以前からもありましたが、現在、原発のストレステストの結果を受けて、全国の各発電所に追加的に付けられています。これは福島第一の6号機が安全に停止したグッド・プラクティスの水平展開のようになっています。
福島第一では非常に過酷な状況が起こりましたが、将来にわたり良い例として参考にすべきものもあります。



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【使用済燃料の貯蔵容器の様子】(提供:澤田哲生氏)



情報提供のために原子力容認の人も原子力反対の人も一緒に議論している

── 視察された内容を伺うと、一部で言われる危険な状況と異なるようです。現状が正しく伝わらないと、今後の原子力発電をどうしていくかを冷静に議論することは難しいのではないでしょうか。

澤田 福島第一の現状をどう見るかは、非常に難しい問題だと思います。見る人の立場や見方によって違うことも言えるし、違う受け止め方もできるので、同じものを見ても、誰が見るか、どういう考え、気持ちで見るかによって変わってくると思います。
それが福島原発の機械としての現状だけではなく、それらを取り巻くいろいろな社会状況、政治的な思惑も含めたさまざまな考え方、とらえ方があるため、原発を論じているのか、政治を論じているのか、あるいは社会を論じているのか、これらがある意味ごちゃ混ぜになってしまっています。
専門家に対する失望感、不信感の他、“原子力ムラ”と言われるような集団に対する失望感や不信感、政治不信もあります。
メディアにしても、大手のメディアで推進の色を出しているところもあれば、脱原発のメディアもあります。加えて、ネット上には、事実誤認も含めた噂やさまざまな情報が流れてきます。それらの情報を取捨選択し、判断しなければならないのですが、そこにガイドラインはありません。
一つ残念なことは、政治がこの1年余りの間、もう少ししっかりものごとを発信してきていれば、ここまで状況が混乱しなかったのかもしれません。政治の状況が逆に混乱を増幅してしまったところもあると思います。原発の再稼働の問題にしても、ストレステストの評価にしても、非常に根強い批判の声がありますが、このような混乱が冷静な議論をなかなか呼び起こしにくい背景だと思います。
私たちは政府のエネルギー・環境会議でできないようなことをしたいと思い、原子力容認派と脱原子力派の人たちがそれぞれの立場を外し、「一般の皆さんに考えてもらうためには自分たちがまず情報提供をしなければならない」ということで、「みんなのエネルギー・環境会議」という会議で議論しています。
その会議で、「原発容認派の人たちが言うことにもそれなりの利があるのではないか」と思っていただく方も出てきています。もう少し広く、理解を深めていけないかということが現在の課題になっています。
また、特にこれからの世代を担う若い人たちに大いに議論していただきたいと思います。「先入観に左右されるのではなく、もう一度素になって考えてみよう」と勧めていますが、なかなか簡単にはいきません。しかし、「できるだけ冷静な議論をしてほしい」ということを常に呼びかけています。
会議の場では冷静に議論できるような局面もありますが、社会としてどうかとなると、なかなか難しく、実際どうすればいいのかを仲間とも考えています。逆に、3.11が機会となり、国民の皆さんの意識を呼び覚ましたということでもあると思います。



政治主導のもと、専門家らが恒常的に情報を発信する仕組みづくりを

── 廃止措置が着実に進められていくためには、どのようなことが必要ですか

澤田 炉心損傷を起こした1号炉から3号機の廃止措置は着実に進めなければなりませんが、長い時間かかります。
瓦礫の処理が社会問題化しているように、福島と全く関係ない隣接の県、さらに岩手などの瓦礫に関しても、他府県がなかなか受け入れない状況です。このような一般の瓦礫の受け入れに関しても、説明会などに行くと、非常にヒートアップし、情緒的な発言をされる方がいるようです。
また、福島の廃炉措置に関して、廃止したときに出てくる高レベルから比較的低レベルの放射能を含んだ廃棄物をどうするのか、福島県外に持ち出せるのか。これらの問題もあります。
現在、一つのことが社会問題としてあると、それをさらに社会問題化するような言動をする人たちがいます。行き過ぎた、ある種、誤解を招くような風潮は鎮めていかなければならないですね。
やはり、政治が主導権を取り、放射線の専門家、原子炉安全の専門家などがさまざまな人に対して発信していく機会をつくっていくことが必要です。特に顔が見える形でやっていかなければならないと思います。情報発信は専門家だけでやっていても政治主導で進めていかなければ、なかなかうまくいきません。もちろんボランタリーにやる必要もあると思います。何かしっかりとした軸を据えて、問題に対処していかなければなりません。
現状がどうなっているのか、どのような問題が出てくるのか、それが何なのか、どのような受け止め方をすればいいかということを政治と政策を実施する人たちと専門家がうまく協調し、まずは説明する場をつくる。これは長い問題ですから、恒常的に続けるような仕組みをつくらなければならないと思います。

── 若手技術者の確保や技術継承の重要性については、どのようにお考えでしょうか。

澤田 福島の原子力発電所で壊れたもの、損傷を起こしたものは廃止措置により、可能であれば更地にもっていくための努力を続けていかなければならないでしょう。これは10年、20年あるいはもっとかかるかもしれません。場合によってはなかなか動かせないものなども出てくるかもしれませんが、そういうものと向き合っていかなければなりません。
それらは、私のようにあと現役が10年あるか、ないかくらいの人間ではなく、もっと若い、現在20代、30代の人たちが自分のキャリアの中の一番活動的な時期にちょうど直面する問題だと思います。非常に長期にわたる問題のため、技術的なチャレンジが一つのコアになると思います。是非、若手の人たちにチャレンジ精神をもって挑んでいただきたいと思います。
大学は、正にそのような最初の入口を提供すべきところだと思います。東工大でも現在、さまざまな若手育成のプログラムをおいています。現在、私たちができることは限られており、現地といってもサイト(発電所)の中には入れません。もっとも近づける30キロ内外のあたりに行き、一番すぐにできることは放射線測定です。そのようなことを学生に実際に体験してもらい、現地で何が起こっているのかを感じるために、フィールドに出るというようなことはやっています。
これから自分たちが正に未知の領域と対峙し、問題を解決していかなければならないという状況のため、自分たちの目線で「このようなプログラムが欲しい」「このようなことがやりたい」ということが双方的に組み入れられるようなプロジェクト、プログラムを行えば、チャレンジ精神も出てきていいのではないかと思っています。また、そのようなことも提案していきたいと考えています。



 

(2012年7月10日)

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