コラム

笑いは万薬の長

腸内フローラの重要性

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》


『原子力文化2018.9月号』掲載


腸内フローラの重要性



人の腸内細菌叢の研究は今や免疫学の分野でも、大きく注目されている。腸内細菌叢はその多様性とお花畑のように菌が群生していることから、腸内フローラとも言われている。
実際腸管内には1000種類以上の100兆個(1000兆個と書いている人もいるが、正直わからない)にも及ぶ細菌が存在していると聞く。数十年前までは、培養できる菌種しかその存在が確認できなかったが、今やDNA解析技術の発展で、桁違いに多くの菌種が存在していることが明らかになりつつあり、2000年以降急速に研究が進んだ。
「うんちの学問!」と馬鹿にするなかれ、腸内細菌叢はいくつかの慢性疾患との関連が明らかにされつつある。特にこの研究を加速させたのが、2013年に発表された治療が困難な細菌性の腸炎に対する便移植の治療効果である。
従来の抗菌剤による治療と健康な人の便を移植する方法を比較したところ、便移植の方の効果が圧倒的によかったという。この研究の報告は多くの研究者に衝撃を与え、以降、それまでは一部の研究者がコツコツと研究を進めていた分野だったが、今や免疫学会でも主会場を満員にするほど、注目される分野となっている。
パリのパスツール研究所のメチニコフ博士は、食細胞の発見者としてノーベル賞を受賞しているが、晩年ブルガリアに長寿者が多いのはヨーグルトの多食にありと、ヨーグルトの大量摂取を推奨した。そして老化や疾患と腐敗便との関係を論じた。実際、年をとると悪玉菌のウェルシュ菌が増えて、善玉菌のビフィズス菌が減る。
私も、(公財)ルイ・パストゥール医学研究センターで、創始者の岸田先生のお手伝いで「すぐき漬」から分離した乳酸菌食による免疫機能への影響の研究にも関わったが、調べた範囲で乳酸菌食には大なり小なり免疫賦活効果は認めることができた。従って、自分のおなかの調子に良いものをしっかり食べたら、と言っている。
ヨーグルトのみならず、人は古来からさまざまな発酵食品を利用してきた。ぬか床には、いろいろな酵母や乳酸菌がいて、特有の味を醸し出している。特に浅漬けと古漬けでも細菌叢が大きく違うとは、その道の研究者の話である。
3.11以降、福島では野菜の放射能汚染を心配して、地元野菜の消費が大きく落ち込んだ。現在では一部の山菜やきのこを除けば放射能汚染は心配ないが、今でも福島産を取り入れた給食に不安をもち、お弁当持参の子どももいると聞いている。栄養的にバランスのとれた給食に比べて、時には明らかな野菜不足の弁当もあったりすると、栄養士の方は心配されていた。
おいしい福島の野菜をしっかり食べて、腸内フローラをしっかりと育てる食生活と、ほとんど存在しない放射能汚染を心配して、野菜不足気味の偏った便秘がちな食生活では、将来にわたってどちらが健康か、将来のがんリスクは?と思わないでもない。 また、朝五時に起きて自宅の前の畑を耕し季節の野菜を食べていた生活と、避難先であまり外出することもなく、スーパーで買ってきた野菜を少し食べる生活とでは、腸内フローラはどちらが豊かかと。

(『原子力文化2018.9月号』掲載)

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