コラム

笑いは万薬の長

たばこのリスク

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》


『原子力文化2017.9月号』掲載


たばこのリスク



2011年に「がんを防ぐための新12か条」が発表された。これは1978年に国立がんセンター研究所が発表した「がんを防ぐための12か条」を、その後の研究成果を踏まえて更新したものである。
大きな変更点は、以前は5番目にあった「たばこは吸わないようにしましょう」が、「たばこは吸わない」、「他人のたばこの煙をできるだけ避ける」がトップ一条、二条に躍り出たことである。
続いて、三条「お酒はほどほどに」、四条「バランスのとれた食生活を」、五条「塩辛い食品は控えめに」、六条「野菜や果物は豊富に」、七条「適度に運動」はほぼ共通で、食べ過ぎを避け、脂肪はひかえめには、八条「適切な体重維持」となっている。「焦げた部分は避ける」「かびの生えたものに注意」「日光に当たりすぎない」「からだを清潔に」という項目ははずされ、九条「ウイルスや細菌の感染予防と治療」、一〇条「定期的ながん検診を」、一一条「身体の異常に気がついたら、すぐに受診を」、一二条「正しいがん情報でがんを知ることから」となっている。
この30年の研究の進展で、肝炎ウイルスやピロリ菌と胃がん、パピローマウイルスと子宮頸がんの関係が明らかとなり、ウイルスの感染予防や除去により、がんの予防が可能となったことがあげられる。また近年、がんは不治の病というよりは、早期発見と適切な治療である程度克服できる疾患ということで、一〇~一二条が追加された。
ともかく、新12か条の特徴は、「たばこ」について、喫煙だけでなく受動喫煙の影響も明確にしたことである。私の周辺でも、40年前は男性の半数以上の人が吸っていた。セミナーの場でのたばこは当たり前、妊娠中は気分が悪くなって、よく途中退出した。そんな彼らも外国留学を契機に、結婚して子どもが生まれて、そして自身が病気になって、禁煙に踏み切った。
3.11直後、あるメーリングリストに、東京の医者が「患者が放射能が心配で夜も眠れないから眠剤が欲しい」と言ってきた。たばこを吸っていて何を言うかと思いつつ、処方したと言っていた。また、雑誌「AERA」(アエラ)が4月の半ば過ぎに取材の電話をかけてきて、「東京でも放射能を心配して子どもに外遊びを控えさせたり、給食の野菜を食べないようにという親もいて、給食の野菜の廃棄率が上がったとのこと。野菜不足もがんリスクですよね」と聞いてきた。免疫学者としては、ストレスや恐怖の方が免疫機能を低下させるので、わずかな放射能を心配するより、前向きに生きる方が良いと答えた。また、野菜には抗酸化成分がたくさん含まれているので、積極的に摂取するメリットを強調した。
福島原発事故を契機として、放射線の影響をずいぶんと勉強した。がんリスクは国立がん研究センターの報告によると、野菜不足1.06倍、運動不足1.15倍、喫煙1.6倍で、喫煙は1000~2000ミリシーベルト浴びた場合に相当するという。原爆被爆者のデータでもヘビースモーカーの場合は、放射線の影響よりは、たばこの影響の方が大きいとのことである。
そういう目で福島県をみてみると、北海道、青森、岩手に続いて全国4位の喫煙率である。野菜摂取量は比較的多いので、禁煙・減塩で健康県になる素地は大いにあるのではないだろうか。

(『原子力文化2017.9月号』掲載)

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