コラム

笑いは万薬の長

生命と酸素 キーワードは活性酸素

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》


(『原子力文化2015.2月号』掲載)

生命と酸素 キーワードは活性酸素



2011年3月の福島原発事故以降、放射線の影響を説明するのに、色々なリスクとの比較の情報が紹介されました。CTスキャン1回受けると5-30mSVとか胸部撮影では0.06mSvといった調子です。一方、喫煙者のがんリスクは、1-2シーベルトの被ばくに相当、100ミリシーベルトの被ばくは野菜不足や受動喫煙とほぼ同じだよとテレビで紹介されていました。私自身はこの説明にそれほど違和感はなかったのですが、物理学出身の名誉教授等は、「タバコの害と放射線の害を同列で扱うなんて不謹慎」と言いました。医学の世界では当たり前のように言われている「放射線もタバコも活性酸素を発生させるし」といってもなかなか理解してもらえません。
しかたがないので、まず生命誕生の歴史から説明をすることにしました。40億年ぐらい前に生命の誕生、その頃の地球には酸素はなく、窒素、二酸化炭素、硫黄化合物や水蒸気が大気を構成、強い宇宙線も降り注いでいたと考えられていたこと。生命体は酸化還元反応のエネルギーを利用する鉄細菌や硫黄細菌の全盛時代でした。その後27億年前頃、光と水を取り入れ光合成をする生物、シアノバクテリア(藍藻)が現れ、これらは二酸化炭素を取り入れ、酸素を放出したのです。地球上に酸素が増えてくると、それまでの地球上の生命体は酸素毒にさらされ多くが死に絶えました。その中で酸素毒抵抗性をもつようになった生命体が生き残りました。即ち、スーパーオキサイド・ディスムターゼといった細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素やそれを受け止め還元して消去するグルタチオンなどの抗酸化システムを獲得して進化した生物が生き残ったのです。また細胞内のミトコンドリアは酸素呼吸の場ですが、これは好気性細菌が細胞内に取り込まれ進化してきたものと考えられています。このように酸素と上手に付き合っていける生物が進化してきたのです。その後、地球上に増えた酸素は大気圏にオゾン層を形成し、それまで降り注いでいた宇宙線・紫外線を遮蔽して、その結果陸上でも生活が可能な生命体が進化しました。従って今、陸上で生活している生命体は大気中の酸素とうまく付き合っていくシステムを獲得して進化してきた強者なのです。
低線量放射線が遺伝子に障害をあたえるといわれていますが、実はそのかなりの部分は放射線が生命体を構成する水分子にあたって、スーパーオキシド(O2・-)やヒドロキシラジカル(HO-)を生じ、それが遺伝子を傷つけることが明らかとなっています。従って、間に活性酸素という言葉をはさむと、放射線の害もたばこの害も比較できるということになります。そして、何よりも呼吸する我々の身体は、活性酸素の害を受けている事、でもその中でそれを克服するシステムを備えたからこそこの地球上でいきてこられたのです。

(『原子力文化2015.2月号』掲載)

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