解説 ホーム > 解説 > ニュースでよく聞くあのはなし > ニュースでよく聞くあのはなし リサイクルできる原子力発電の燃料 ~使用済燃料の再処理には3つのイイコトがある~ ニュースでよく聞くあのはなし ニュースでよく聞くあのはなし リサイクルできる原子力発電の燃料 ~使用済燃料の再処理には3つのイイコトがある~ 「そもそも」が口ぐせ★ニュースに詳しい♪「そもそも姉」がザックリ解説! 掲載日2023.5.29 WEBでしっかり解説!原子燃料サイクル 日本では1970年代に発生した二度のオイルショックによる急激な石油の高騰・燃料不足の経験を踏まえ、海外のエネルギー資源に大きく依存すること無く、我が国独自のエネルギー供給の実現を目指すことが原子力利用の大きなインセンティブになっています。 1973年に起きた第一次オイルショックでは、石油が供給されないことで産業活動に大きな制約が掛かり、十分な発電ができなくなり、全国のスーパーなどの店舗から日用品がなくなりました。これにより品不足を予想した買い占め、売り惜しみ、急速な値上げなど、これまで日本の経済が経験したことのない経済危機をもたらしました。 エネルギー資源がほとんどない日本にとって、将来に大きな不安を残したこの経験をもとに、エネルギーの自立を目指すことが最も重要な国の政策課題となりました。さて、ここではエネルギー資源を有効に利用する原子燃料サイクルの構築に向けた取り組みと効果を具体的に解説します。 (1)原子力発電と原子燃料サイクル オイルショックは日本だけでなく、石油を中心とした世界経済を大混乱に陥れ、多くの先進国では対策として、原子力発電所の建設が積極的に進められました。 特に原子力発電の燃料であるウランを輸入に頼っている日本では、原子力発電を安定的に進めるためには国内での燃料リサイクルの確立が必須と考えました。まだ一般的に、リサイクルという概念が普及していなかった時代にリサイクルの重要性が認識されたのです。原子力発電は他の発電方法(火力発電)と異なり、燃料のリサイクルが可能な唯一の発電方法であり、燃料のリサイクルを前提とした原子力発電の実用化は、まさに日本にとって救世主とも言える技術と考えられました。 原子力発電所で使用された原子燃料は、以下の図のとおり、再処理工場に運ばれ、再利用可能なウラン・プルトニウムを分離・利用し、あらためてこれらを元にしてリサイクル燃料(図の中ではMOX燃料)を製造することができます。 出典:原子力・エネルギー図面集|原子燃料サイクル (2)原子燃料はほとんどが再利用できる さて、利用した原子燃料のうち、どのくらいの割合が再利用できるのでしょうか?実に95%以上が再利用できるのです。再利用できる資源が95%以上もあれば、資源のない日本にとってその再利用は、資源確保の重要な手段となり得ます。 その95%以上の再利用可能な燃料を使用済み燃料から取り出す作業が「再処理」と呼ばれます。元の燃料であるウランは海外から輸入されたものであっても、その95%以上を国内で資源としてもう一度利用できるとすれば、このリサイクルされた資源は準国産のエネルギー資源と呼べるのではないでしょうか。 95%以上をリサイクルできるとすると残りのおよそ5%が廃棄することになります。すなわち、再処理を行うことにより廃棄しなければならない量は5%まで削減できるということになります(実際にはガラスに固めて廃棄するため、ガラスの量も含めると廃棄する廃棄物の体積は概ね1/4になります)。再処理を行うことにより、このように最終的に処理・処分しなければならない廃棄物の量が圧倒的に減らせるというメリットもあります。 発電によるウラン燃料の変化 (3)「エネルギー貯蔵」としての再処理 原子燃料は、一旦原子炉に装荷されると4年から5年ほど利用することができます。一方、化石燃料は常にボイラーやタービンなどで燃焼させるために常に燃料を供給し続ける必要があります。このような原子力発電固有の特徴は言い換えると「数年間にわたり大規模なエネルギーを貯蔵できる」ということになります。 さて、このように考えると、化石燃料は非常に大量に消費されるため、頻繁に・大量に燃料を輸送してくる必要があるということが分かります。以下の図に示すとおり100万kWの発電所を1年間運転するために必要となる燃料は原子力発電の場合21トンであり、4年に一度燃料を装荷することを考えれば4年間にわたり100万kWの電力を発電するための燃料はわずか84トン(21トン×4年)と言うことになりますね。 さて、このように考えると、化石燃料は非常に大量に消費されるため、頻繁に・大量に燃料を輸送してくる必要があるということが分かります。以下の図に示すとおり100万kWの発電所を1年間運転するために必要となる燃料は原子力発電の場合21トンであり、4年に一度燃料を装荷することを考えれば4年間にわたり100万kWの電力を発電するための燃料はわずか84トン(21トン×4年)と言うことになりますね。 化石燃料と比較してみましょう。天然ガスの場合、100万kWの発電に必要な年間の燃料は95万トン(原子燃料の4万5000倍)ということになります。これからも分かるように化石燃料を燃焼して発電する限り、化石燃料の調達に掛かるコストが発電コストの大半を占めることが想像できるのではないでしょうか。 出典:経済産業省 資源エネルギー庁 さて、原子力発電そのものが大規模なエネルギー貯蔵機能を持っているということは、その燃料を国内でリサイクルできることにより一層「エネルギー資源の確保」という点で重要な意味を持ちます。 (4)廃棄物の「安全性を高める」ための再処理 原子力発電所から排出される使用済みの原子燃料は、そのままでは非常に大きな放射能をもっています。ところが、再処理を行った後の廃棄物は放射能も大幅に減少しています。すなわち、長期間放射線を出し続ける成分を新たな燃料としてリサイクルすることで廃棄物のもつ放射能を有する期間を大幅に減らすことができるのです。このように、再処理を行うことで廃棄物の量(体積)が約1/4になると同時に、高い放射能を有する期間も約1/12に減らすことができるのです。再処理は原子力発電により発生する高レベル放射性廃棄物の処理・処分の取り扱い・コストなどの面でも大きなメリットがあります。 原子燃料サイクルの実現は、このように未来の日本のエネルギー資源を安定的に確保し、エネルギー自給率を高めるのみならず、安全・安心の面からも重要な鍵を握っていると言えます。 【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏 工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。 この記事に登録されたタグ 原子力発電所原子燃料サイクル再処理そもそも姉さん このページをシェアする 関連記事 【動画でザックリ解説】処理水って?【動画でザックリ解説】日本のエネルギーの特殊な事情【動画でザックリ解説】世界のエネルギー事情~脱ロシアと脱炭素に向けた各国の課題~【動画でザックリ解説】電力不足?!なぜ電力需給ひっ迫が起きる? Copyright(C) Japan Atomic Energy Relations Organization All Rights Reserved.
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ニュースでよく聞くあのはなし リサイクルできる原子力発電の燃料 ~使用済燃料の再処理には3つのイイコトがある~
WEBでしっかり解説!原子燃料サイクル
日本では1970年代に発生した二度のオイルショックによる急激な石油の高騰・燃料不足の経験を踏まえ、海外のエネルギー資源に大きく依存すること無く、我が国独自のエネルギー供給の実現を目指すことが原子力利用の大きなインセンティブになっています。
1973年に起きた第一次オイルショックでは、石油が供給されないことで産業活動に大きな制約が掛かり、十分な発電ができなくなり、全国のスーパーなどの店舗から日用品がなくなりました。これにより品不足を予想した買い占め、売り惜しみ、急速な値上げなど、これまで日本の経済が経験したことのない経済危機をもたらしました。
エネルギー資源がほとんどない日本にとって、将来に大きな不安を残したこの経験をもとに、エネルギーの自立を目指すことが最も重要な国の政策課題となりました。さて、ここではエネルギー資源を有効に利用する原子燃料サイクルの構築に向けた取り組みと効果を具体的に解説します。
(1)原子力発電と原子燃料サイクル
オイルショックは日本だけでなく、石油を中心とした世界経済を大混乱に陥れ、多くの先進国では対策として、原子力発電所の建設が積極的に進められました。
特に原子力発電の燃料であるウランを輸入に頼っている日本では、原子力発電を安定的に進めるためには国内での燃料リサイクルの確立が必須と考えました。まだ一般的に、リサイクルという概念が普及していなかった時代にリサイクルの重要性が認識されたのです。原子力発電は他の発電方法(火力発電)と異なり、燃料のリサイクルが可能な唯一の発電方法であり、燃料のリサイクルを前提とした原子力発電の実用化は、まさに日本にとって救世主とも言える技術と考えられました。
原子力発電所で使用された原子燃料は、以下の図のとおり、再処理工場に運ばれ、再利用可能なウラン・プルトニウムを分離・利用し、あらためてこれらを元にしてリサイクル燃料(図の中ではMOX燃料)を製造することができます。
出典:原子力・エネルギー図面集|原子燃料サイクル
(2)原子燃料はほとんどが再利用できる
さて、利用した原子燃料のうち、どのくらいの割合が再利用できるのでしょうか?実に95%以上が再利用できるのです。再利用できる資源が95%以上もあれば、資源のない日本にとってその再利用は、資源確保の重要な手段となり得ます。
その95%以上の再利用可能な燃料を使用済み燃料から取り出す作業が「再処理」と呼ばれます。元の燃料であるウランは海外から輸入されたものであっても、その95%以上を国内で資源としてもう一度利用できるとすれば、このリサイクルされた資源は準国産のエネルギー資源と呼べるのではないでしょうか。
95%以上をリサイクルできるとすると残りのおよそ5%が廃棄することになります。すなわち、再処理を行うことにより廃棄しなければならない量は5%まで削減できるということになります(実際にはガラスに固めて廃棄するため、ガラスの量も含めると廃棄する廃棄物の体積は概ね1/4になります)。再処理を行うことにより、このように最終的に処理・処分しなければならない廃棄物の量が圧倒的に減らせるというメリットもあります。
発電によるウラン燃料の変化
(3)「エネルギー貯蔵」としての再処理
原子燃料は、一旦原子炉に装荷されると4年から5年ほど利用することができます。一方、化石燃料は常にボイラーやタービンなどで燃焼させるために常に燃料を供給し続ける必要があります。このような原子力発電固有の特徴は言い換えると「数年間にわたり大規模なエネルギーを貯蔵できる」ということになります。
さて、このように考えると、化石燃料は非常に大量に消費されるため、頻繁に・大量に燃料を輸送してくる必要があるということが分かります。以下の図に示すとおり100万kWの発電所を1年間運転するために必要となる燃料は原子力発電の場合21トンであり、4年に一度燃料を装荷することを考えれば4年間にわたり100万kWの電力を発電するための燃料はわずか84トン(21トン×4年)と言うことになりますね。
さて、このように考えると、化石燃料は非常に大量に消費されるため、頻繁に・大量に燃料を輸送してくる必要があるということが分かります。以下の図に示すとおり100万kWの発電所を1年間運転するために必要となる燃料は原子力発電の場合21トンであり、4年に一度燃料を装荷することを考えれば4年間にわたり100万kWの電力を発電するための燃料はわずか84トン(21トン×4年)と言うことになりますね。
化石燃料と比較してみましょう。天然ガスの場合、100万kWの発電に必要な年間の燃料は95万トン(原子燃料の4万5000倍)ということになります。これからも分かるように化石燃料を燃焼して発電する限り、化石燃料の調達に掛かるコストが発電コストの大半を占めることが想像できるのではないでしょうか。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁
さて、原子力発電そのものが大規模なエネルギー貯蔵機能を持っているということは、その燃料を国内でリサイクルできることにより一層「エネルギー資源の確保」という点で重要な意味を持ちます。
(4)廃棄物の「安全性を高める」ための再処理
原子力発電所から排出される使用済みの原子燃料は、そのままでは非常に大きな放射能をもっています。ところが、再処理を行った後の廃棄物は放射能も大幅に減少しています。すなわち、長期間放射線を出し続ける成分を新たな燃料としてリサイクルすることで廃棄物のもつ放射能を有する期間を大幅に減らすことができるのです。このように、再処理を行うことで廃棄物の量(体積)が約1/4になると同時に、高い放射能を有する期間も約1/12に減らすことができるのです。再処理は原子力発電により発生する高レベル放射性廃棄物の処理・処分の取り扱い・コストなどの面でも大きなメリットがあります。
原子燃料サイクルの実現は、このように未来の日本のエネルギー資源を安定的に確保し、エネルギー自給率を高めるのみならず、安全・安心の面からも重要な鍵を握っていると言えます。
【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏
工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。
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