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ニュースでよく聞くあのはなし

ニュースでよく聞くあのはなし「処理水」って?

「そもそも」が口ぐせ★ニュースに詳しい♪「そもそも姉」がザックリ解説!
 
掲載日2022.2.14

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WEBでしっかり解説!福島第一原子力発電所にある「処理水」って?

東日本大震災による津波によって発生した福島第一原子力発電所における事故の映像はニュースなどで紹介されていますが、その敷地内に広がるタンクの映像に誰もが気付き、疑問に思うことでしょう。

写真提供:東京電力ホールディングス株式会社

ここには「処理水」が貯蔵されているのですが、この処理水はどのようにして発生し、どうしてこれほど大量に貯蔵されているのでしょうか。また、そもそも「処理水」とはどのようなものなのでしょうか。

(1)そもそも処理水とは

処理水のことを理解するためには、福島第一原子力発電所の事故で起きたことを知る必要があります。原子炉の中にある燃料は、自分自身で熱(崩壊熱)を発生しているため、常に冷却し続ける必要があります。津波による電源喪失により、燃料の冷却ができなくなったことが事故の発端となります。

出典:東京電力ホールディングス株式会社 『福島第一原子力発電所事故の 経過と教訓』

冷却できずに溶け落ちた燃料(燃料デブリ)を冷やすため、原子炉に入れている冷却用の水が燃料に触れて「汚染水」になってしまいました。この汚染水に、地下水脈から建屋内に投入してきた水が混ざることで、汚染水が増加しています。 この放射性物質に汚染された水(汚染水)を浄化処理したものを「処理水等」といいます。

汚染水発生のメカニズム


※建屋内汚染水は、現在はドライアップ

出典:経済産業省ホームページ「廃炉・汚染水対策ポータルサイト」


(2)汚染水の浄化処理には順番がある

燃料デブリ等を冷やした後の水には様々な放射性物質が含まれています。含まれている放射性物質を沈殿させたり、吸着材に吸着させるなど、様々な方法で大部分を取り除くことができるのですが、処理には順番があります。 まず、量も多く吸着により除去しやすいセシウムとストロンチウムから除去します。その除去した水を淡水化装置にて、塩分を除き、淡水化して、燃料の冷却用の水に再利用するものと、ストロンチウム処理水に分けます。ストロンチウム処理水は、ALPS(アルプス)※1と呼ばれる装置で大部分の放射性物質を除去します。この浄化処理が行われるまでの間、これもまた別のタンクに貯蔵されています。 ※1 ALPS(アルプス):多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System)

出典:東京電力ホールディングス株式会社

(3)ALPSによる浄化処理

ストロンチウム処理水はALPSに送られ、大部分の放射性物質が除去されます。しかし、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことができません。このトリチウムという放射性物質は、水のかたちで存在し、汚染水の中に含まれるのですが、自然界にある水とほとんど区別することができません。それは、化学的性質(他の物質との反応する性質など)、物理的性質(物質に吸着する性質など)が水とほとんど同じで、区別・選別ができないからです。

出典:資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ

(4)タンクに貯蔵されている処理途上水とALPS処理水

福島第一原子力発電所の事故から2年くらいまでは、ALPSを開発している段階のため、セシウム以外の放射性物質を除去することができませんでした。ALPS開発後もしばらくは、発電所内のタンクに貯蔵していた水の浄化処理において、タンクに貯蔵する際の放射性物質の濃度の基準を下回ることを優先していたため、環境へ放出するための基準を満たしていません(これを処理途上水といいます)。 現在、この処理途上水がタンクに貯蔵されている水の約7割を占めており、環境へ放出するための基準を満たすためには、ALPS等による再浄化が必要です。

汚染水に関する放射性物質の濃度の基準
  • ・タンクに貯蔵する際の基準
  • ・環境へ処分するための基準

タンク内のALPS処理水等の貯蔵量(2022年2月3日現在)
  • ・処理途上水 ~ 67%(832,900m3)
  • ・ALPS処理水 ~ 33%(410,100m3)

出典:東京電力ホールディングス株式会社「処理水ポータルサイト」

(5)海洋放出について

今後、廃炉事業を進める過程において、さらなる汚染水の発生が予想されますが、溶け落ちた燃料の取り出しなどを進めていくためにはタンクのある敷地を最大限有効に活用する必要があるため、このままタンクを増やし続けることはできません。処理途上水は再度、ALPS等により、環境に放出する場合の基準を満たすまで浄化します。環境への放出の基準を満たす水(ALPS処理水)は、サンプリング(トリチウムを除く核種が基準値未満であること、さらに、トリチウム濃度を確認すること)を行い、トリチウムに関する基準も満足するよう大量の海水で希釈した後に、福島第一原子力発電所の沖合1kmのところまで布設した海底トンネルを通じて、放出される計画です。

出典:東京電力ホールディングス株式会社「処理水ポータルサイト」

ALPS処理水の処分方法については、これまで多くの議論が重ねられましたが、世界中の多くの原子力施設で行われている海洋放出という方法で行うことが決められました。放出の基準を満たすように十分希釈した上でトリチウムを含む処理水の海洋放出を行う計画となっています。IAEA(国際原子力機関)によれば、海洋放出は技術的に実現可能であり、国際慣行に沿っているものと評価されています。

【監修】 株式会社 ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長 金田 武司 氏

工学博士。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。(株)三菱総合研究所勤務を経て、2004年(株)ユニバーサルエネルギー研究所を設立。2018年8月に新著『東京大停電』を出版。

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