コラム

笑いは万薬の長

3.11以降の放射線に関するツイッターによる情報拡散解析から

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》


『原子力文化2018.11月号』掲載


3.11以降の放射線に関するツイッターによる情報拡散解析から



最近我々は、2011年3月からの半年間、ツイッター上で飛び交った放射線関連の情報拡散を解析した英語論文(※)を発表した。
私自身は免疫学が専門だが、2011年以降リスクコミュニケーション(リスコミ)の世界に関わってきた。何故、ツイッター解析? 見えない糸に引き寄せられてとしか答えられない。今から思えばデマに近い内容が、何故信じられたのか。何故、福島第一原発がある程度落ち着いた2011年夏頃から県外避難者が大きく増加したのか、気になっていた。
今回発表した論文への取り組みは、2016年の年末に始まるが、遡ると、2011年3月11日から始まっている。物理学者の坂東昌子氏を始めとした京都の仲間との議論、2011年秋の日本学術振興会(学振)の説明会チームの一員としての活動、日赤の講演会と続く。
さらに「放射線の影響とクライシスコミュニケーション」に関する学振の先導的開発委員会と、どんどん、クライシスコミュニケーションに首を突っ込んでいくこととなる。特にこの委員会で、ツイッター解析のきっかけをつくってもらったのは大きい。
何故、ツイッター? ソーシャルメディアが今のように発達した時代に、それに即した研究はないよね。これからの時代、ツイッターも大事だよね、と。その後、環境省の助成金を得て、学振の委員でこの問題に関心を持つメンバーと、南相馬市でリスコミ活動をしていた坪倉氏(現福島県立医大)等、当時、南相馬市立病院の方々を巻き込んで、研究班を立ち上げた。
また、2016年12月に京大の情報のネットワークの可視化を専門としている尾上氏(現日大)に出会い、データをわたすと、一か月も立たないうちに、彼は解析結果を持ってきた。図をみて、愕然、まさに追い求めていた、結果であった。私たちが何故こんなデマに近い内容が信じられているの?と思っていた背景が、見えてきた。その後、坪倉、鳥居(東大)、尾上を中心にワーキンググループを立ち上げ、毎月集まって論文の内容を固めて行った。
事故前は20~30%であった放射線・原発事故関連のリツイート割合が、事故後は50%前後と大きく増えていた。また、上位100件のアカウントでリツイートの30%以上を占め、限られた数のインフルエンサーの影響が、ツイッターの世界では大きかった。明らかに感情的なツイートも多く、使っている言葉で、グループ化し、最終的に、A:科学的事実に基づいた発信群、B:感情的な表現の多い群、C:メディアに群分けした。
3月は各群が拮抗していたが、3月末からはB群の割合が過半数を占めるようになり、その状態はその後半年間変わらなかった。また初期は別として、各群間を超えたリツイートはほとんどなかった。この結果から、放射線が少しでも危ないと思う人は、より危ないという情報を求め、途中から科学的に正しい情報が発信されても、受け入れる余地がないのでは、と思った。
ツイッターは情報の即時性という点で、うまく使えば大きな力を発揮する一方、デマ情報も拡散しやすい。その特性を理解し、大規模災害時に科学的事実に基づいた情報をリアルタイムに発信していく方法の研究が今必要とされている。

Tsubokura M, et al. Plos One, 2018日本語版はこちら

(『原子力文化2018.11月号』掲載)

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