コラム

笑いは万薬の長

赤を探せ!

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》


『原子力文化2018.6月号』掲載


赤を探せ!



もう30年以上前のことであるが、女性研究者仲間で学会に着ていく服というテーマで議論したことがある。目立たない色と言った人も多かったが、私は、「赤い服」と答えた。大学生の時から、結構赤い服は着ていたが、京大の理学部、動物学教室の大学院に入って、なんとうっとうしいところだと思った頃から、だんだん晴れやかな色を着るようになった。
もう建て替わってなくなったが、理学部の動物・植物学教室の建物は大正の頃の古い建物で、薄暗く雨漏りの跡も結構あった。女性も少なかったので、ケタケタ笑うと場違いな感じがあったことも否めない。そんな中で、せめて服だけは、と少しずつ明るい色となり、そのうちに赤い服が多くなった。さらに学会では、赤いブレザーなどを愛用するようになった。いやあ、赤い服の人が壇上で発表し、座長席に座っているのも良いね、と言ってくれる人もいた。まだ女性割合がそんなに多くなかった頃である。
20年ぐらい前に、「雲の上の人より貴方ぐらいがちょうどよい!」とおだてられて『理系の女の生き方ガイド』という本をお姉さん格の理論物理学者の坂東昌子さんと書いた。その中に、前述の学会に着て行く服ということで「私は赤を着て行く」と書いた。その本を読んだ若い方が、免疫学会で私のポスターの前にきて、「やっぱり赤だった」と大笑いした。
京大時代のボスは免疫学会で「宇野さんは?」と聞かれると、「赤を探せ」と言った。確かに免疫学会、昨今はとりわけ若い方でもリクルートスーツとかで、男性も女性も遠目にはわからない。グレーとか黒っぽい色が多いことも事実である。ブルーや明るいグレーとなるとむしろシニアが多かった。一方、私の参加するサイトカイン(※)の国際学会では女性割合も多く、皆さんの服も結構カラフルであるから「赤」だけでは無理だと仲間は言うが、国内の学会ではかなり遠くからでも見つかるという。
最近は、放射線関係の異分野の学会に出ることも増えたが、「勝負服ですか」と言われることも多い。私にしたら、毎日着ているので、普通なのだけど。洋服ダンスの中は9割方赤の服となる。靴もほとんど赤で、靴を脱ぐ場でも、自分の靴を見つけるのに困ることはない。
自分の色を持つことは悪くない。研究所内でも赤いものは、宇野のものというイメージがあり、置き忘れていてもかならず戻ってくる。
最近少しきつくなった服を、女性研究者仲間にもらってもらった。講義に着ていったとのこと。赤い服は着たいなと思っていたけど、なかなか決心がつかなかったそう。ハードルが下がったのはよかった。
前号で紹介したプレシンポに続いて開催された国際会議では、高校生セッションもあり、福島県も含めいくつかの地域からの高校生も来て、放射線や風化をキーワードに議論がなされた。特に福島の高校生の現状を押さえた発言に、感動した。彼女、彼らが自分のカラーをもって、自分の意見を伝えられるよう成長していると感じた。不幸な事故を経験し、乗り越えた先には、きっと優しくたくましく成長した子どもたちがいるかと思う。

※細胞、特に免疫細胞から産生される蛋白性の生理活性物質。感染防御、生体機能の調節、様々な疾患の発症の抑制に重要な役割を果たしている。

(『原子力文化2018.6月号』掲載)

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