コラム

笑いは万薬の長

正体のわからないものは怖い!

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》


(『原子力文化2014.10月号』掲載)

正体のわからないものは怖い!



8月の初めに、チームNPO法人あいんしゅたいんで、福島県伊達市、南相馬市、郡山市で、避難先から帰られた方々を含め、放射線被ばくの影響にかなり強い不安感を持つ方々と対話型学習会を開いた。理事長の坂東さん(理論物理)、私(生物系)、角山さん(京大RIセンター、分子生物)、鳥居さん(東大、実験物理)、そして京大の学生、院生という構成であった。学生チームは、同じ場所で子供たちを相手に浮沈子、スライム等と視覚・聴覚・触覚に楽しい「おもしろサイエンス」実験を行なった。子供たちが実験に夢中になると親たちも安心して、学習会に臨める。
ハンドマッサージをしながら、何を知りたいか、何にひっかかっているかを聞き出し、話を進めた。私が話をすると、坂東さんがつっこむ。角山さんによる放射線とのつきあい方の実践的講義、南相馬では二本松のホットスポットの土の上に、園庭の砂をのせて遮蔽の実験をした。ピーという線量計の音が止まって、あとはピッ、ピッ、という自然放射線の音になったとき、オオーッ、という声があがった。アルファ線、ベータ線、ガンマ線の角山さんの説明に、そのたとえはちょっと違うよ、と鳥居さんがコメントを入れたりした。こんな調子の対話型学習会で、専門家の間でも少しずつ考え方に違いがある事、でも全体としては皆今の福島の大半の地域の放射線量なら、ホットスポットに少し注意すれば問題ないと思っている事を感じ取ってもらえたようである。
今回角山さんの手配で、南相馬市から浪江町に入り、赤宇木の集会所や津島地区などでは降りて周辺の線量を測った。7から12マイクロシーベルト/時間と半端ではない数字であり、草の上は更に高い値であった。
途中でアブやブヨに襲われた。特にウシアブという2.5センチメートルはあろうかというアブが10匹ばかり車の窓に止まってなかなか離れなかったときは、2人の物理学者は大騒ぎであった。その後、小型のブヨが車の中に入ってきたときの騒ぎようも、予想外。スズメバチではないので、噛まれたら腫上がるだけと二人の生物学者が言っても通じない。化学専攻の学生は声もだせないほど怖かったとのこと。鳥居さんは1000ミリシーベルトの恐怖だったという。わからないものの恐怖とはこんなものかと思った。
育った環境にも影響するだろうが、いつも冷静に放射線について説明する物理学者の姿との落差に驚いた次第である。正体のわからないものは、怖い!、放射線に対する恐怖との関連を改めて感じた次第である。まずは正体を解ってもらう事が必要と思った。

(『原子力文化2014.10月号』掲載)

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