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【寄稿】アフターコロナ 脱炭素に向けた温暖化対策と経済発展の両立をはかるには

掲載日2020.6.10
公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員・システム研究グループリーダー 秋元 圭吾 氏

新型コロナウイルスパンデミックが起こり、社会は大きな変化を求められている。一方、コロナ禍によって、短期的には世界のCO2排出量は大きく減少すると見込まれるが、継続的な温暖化対策は不可欠である。そこで、コロナ禍と地球温暖化問題を比較し、そこからの示唆を踏まえつつ、今後の温暖化対策を展望してみたい。



温暖化問題の現状

パリ協定では、産業革命以前比で2℃以内に十分に低く抑える、1.5℃以内を追求するといった目標が掲げられた。また、そのため、21世紀後半には正味ゼロ排出(脱炭素化)を目指すとされている。


温暖化影響には引き続き大きな不確実性が伴っているものの、世界気温は上昇基調にあり、温暖化影響も顕在化し始めているとされている。大型台風や豪雨の増加、マラリア等の感染症の増大、氷河・氷床の融解など、様々な温暖化影響リスクが懸念される。


新型コロナウィルスのリスクと同様に、温暖化によるリスクを正しく恐れることが必要と考えられる。


気温上昇

(出典:一般財団法人日本原子力文化財団『エネ百科』-「私たちの暮らしを守るために」)


コロナ対策と温暖化対策

コロナ対策としては、危機に対応するため、欧米ではロックダウンのような強硬な措置がとられ、日本でも非常事態宣言が出され、日本の場合は強制的な措置ではないものの、それでも他国と遜色ない水準で抑制された。しかし、これは非常にコストがかかる対策で経済への影響は大きく、長期間の持続が難しい。よって、いずれの国も、一定の受容可能と考えられるリスクとなった段階で、リスクは残っていても、ロックダウンや非常事態宣言を解除した。そして、新しい生活様式への変化を含め、コロナに適応しようとしている。現在、治療薬やワクチン開発等が急がれている。これは、ロックダウンのような莫大な費用がかかる対策ではなく、費用が安価な対策を創出しようとしているということである。


温暖化対策に置き換えてみよう。コロナ禍は、短期の大きな健康リスクだが、温暖化問題は、コロナほど大きな健康被害をもたらさないと見られるが、長期にわたって続くリスクである。この点では両者は異なっている。しかし、リスク対応という視点で見ると、共通点は多い。温暖化対策も、大幅な排出削減を実現しようとすれば、現在の技術ではとても高い費用が必要である。ロックダウンと同じである。そしてそのような対策は長期の継続が難しい。よって、温暖化への適応も考えていかざるを得ない。しかし、徐々に増していく温暖化のリスクに対応するため、コロナにおける治療薬やワクチン開発のように、温暖化対策の革新的な技術開発を行い、対策コストを下げ、温暖化のリスクを低減することが必要である。


コロナ対策としてのマスクと原子力

そして、原子力発電は、コロナ対策で考えると、マスクのようなものとも考えられる。もちろん、原子力だけではなく、比較的安価な省エネ対策なども同様である。マスクをしても完全にはコロナ感染のリスクをゼロにできない。原子力が温暖化対策として万能なわけではない。また、マスクをすると息苦しく、例えば猛暑の中で、マスクをつけて運動することは死亡リスクを生じることさえある。しかし、万能な治療薬やワクチンがない状況で、安価なコロナ対策としては、マスクはとても重要である。原子力も事故のリスクは確かに存在する。しかし、なかなか安価で大量にCO2排出を抑制できる技術がない中で、相対的に安価な原子力発電の活用は、温暖化のリスクを低減させることができる。もちろん、マスクと同じく、適切な利用が必要である。さもなければ、別のリスクを生み、全体としてリスクを増大させてしまう危険性もある。


■発電時にCO2を排出しない原子力は温暖化対策に有効とされている

燃やす発電燃やさない発電

(出典:一般財団法人日本原子力文化財団『エネ百科』-「私たちの暮らしを守るために」)


コロナ後のエネルギー・温暖化対策

コロナによって世界の経済は大きなダメージを受けた。需要が大きく落ち込み、エネルギー消費は大きく減り、CO2排出量は大きく減少すると見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)によれば、コロナによって2020年の世界のCO2排出量は前年比8%と推計されている。温暖化リスクを低下させるためCO2排出量は抑制したいものの、温暖化政策として、このような大きな経済損失や雇用損失をしてまで、CO2を減らし続けることは政治的に不可能である。なお、コロナ禍によって経済が落ち込んだため、今後当面、世界の投資意欲は減退すると考えられる。短期的な雇用対策としての政策はあるとしても、それが長期的に電力料金の上昇を誘発するような対策は、各国ともに採用しにくくなるだろう。先進各国は、中国などに依存していた製造業の国内回帰も図りたいところであり、その際には、安価で安定的、かつ、CO2削減にも寄与する電力供給は大変重要となる。


コロナによる短期的な排出減は極めて大きいが、経済の回復とともに排出は再び上昇に転じるはずである。短期のコロナによる直接的な排出減は、長期的な世界の気温上昇トレンドには大きくは効かないだろう。むしろ投資の減退の効果の方が大きく、長期ではより大きな排出となる可能性さえある。


持続的な対策が必要な温暖化対策は継続しなければならない。欧州主要国は、グリーン・ニューディール政策によって、再生可能エネルギーや電気自動車などへ、政府支援を行って投資拡大して需要を創出しようと考えているようである。しかし、コロナによって、各国とも財政は大きく悪化し、企業も余力が小さくなってしまったため、資本生産性の低い高価な対策をあまり進めすぎれば、財政の悪化を招くとともに長期的な生産性を悪化させかねない。よって、比較的安価で効果的な温暖化対策がこれまで以上に求められる。


一方、コロナと両立する社会システムのあり方を今後追求すべきである。リモートワークなど、デジタル化の加速によって、コロナのような感染症拡大を抑制しつつ、省エネルギーにも寄与し、また、労働生産性を向上させるような複合効果を有する対策を、技術によって加速させることが重要である。


我々は、コロナ対策を通して「リスク」をより身近に考えるようになったと思う。是非、この機会に、温暖化のリスクや原子力のリスクなど、リスクにはトレードオフ(相反)があるので、総合的にリスクを管理する、対応のあり方を考えるきっかけにしていきたいものである。



公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員・システム研究グループリーダー 秋元 圭吾 氏

横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業、同校大学院工学研究科博士課程修了。専門は、エネルギー・環境システムの分析・評価、地球温暖化対応戦略の政策提言。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員などを務める。

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