コラム

笑いは万薬の長

花粉症と衛生仮説

宇野 賀津子 氏 《(公財)ルイ・パストゥール医学研究センター インターフェロン・生体防御研究室長》

第9回


花粉症と衛生仮説



三月の初め、京都の北野天満宮(北野の天神さん)に四年ぶりに行った。境内の梅は、三分から八分咲き、紅梅、白梅それぞれに凛とした美しさだった。
北野天満宮は有名な菅原道真公をおまつりした神社で、学業成就や武芸上達の神様である。特に受験シーズンともなると、お参りの人でいっぱいになる。牛は天神さんのお使いということで、境内には牛の像が多い。この牛の像の頭をなでると頭がよくなるといわれ、特に受験生に大人気。また体の調子が悪い人は、自分の体の悪い部分と、牛のその同じ部分とを交互になでると良くなるといわれている。
二〇一一年三月初めにここに行って、奇妙なものをなで牛の横に見た。白い消毒液のタンクである。どうも新型インフルエンザが流行った二〇〇九年頃から、置かれたらしかった。手を消毒してから牛をなでるのが良いか、なでてから消毒する方が良いのかと思わず考えてしまった。
その後、三・一一が起こり、追われるような日々にその後をなかなか確かめられないでいた。四年ぶりに天神さんに確かめにいき、もう置かれていないことを確認した。少なくとも二〇一三年にはなかった様子。しかしながら新型インフルエンザ騒ぎ以降、病院ならいざしらず、大学、ホテル、デパートの入り口と消毒液が置かれている。
実は、免疫の世界では、昨今のアレルギー症の増加は、清潔すぎる環境の弊害と指摘されている。私たちの免疫機能は、子供時代に色々な刺激に遭遇して完成されていく。ところが、なんでも除菌・空気清浄機という環境は、幼少時に当然経験するべき種々の細菌やウイルス感染から遠ざけ、結果として免疫機能の正常な発達が妨げられ、アレルギー疾患に陥るという。
これは「衛生仮説」と名付けられ、幼少期の不必要な抗生物質の投与とともに、アレルギー疾患の増加を説明する説として評価されている。私は、二〇一一年に福島へ行ったときから、東京、京都、大阪に比べて花粉症だと言われるヒトの割合が少ないなと感じていて、勤めておられる方でも家庭菜園は当たり前という環境だろうかと推察していた。
ところが三・一一以降、除染された運動場ですら子供を遊ばせるのは心配との声があがった。福島市の少し放射線量の高い地域にある、「さくら保育園」では専門家のアドバイスをもとに除染したり、調査をもとにお散歩ルートを決め、二〇一三年秋に二歳児は生まれて初めて園外にお散歩にでたとか。
その子供たちの様子に園長先生は、「鉛の箱の中では子供は育たない」と。土に触れ、ザリガニや木の実に触れて、子供は育つと! そのかわり、子供の手に触れるものはすべて放射線量を測っていると。三・一一以降、屋内遊戯施設でしか子供を遊ばせない親もいると聞いている。将来、その子はアレルギーに悩まないだろうか、気になっている。

(『原子力文化2015.4月号』掲載)

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