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【お仕事コラム】ミライを切り拓く!原子力のお仕事インタビュー 第12回
お仕事コラムとは?
中高生の方々に向けて、原子力や放射線に関連する業界やお仕事について、より深い興味・関心・理解を得られるような情報を提供することを目的とした、お仕事紹介インタビューです!
第12回のインタビューは「一般財団法人 日本原子力文化財団(JAERO)の永田夏樹さん!」

電気事業連合会「魚食振興の取り組みについて」の動画制作協力時に撮影
お仕事紹介(何のお仕事をしているの?)
日本原子力文化財団は「原子力の平和利用についての知識の啓発普及を行ない、その必要性についての認識を高めること」をミッションとして設立されました。
原子力について知ってもらうために、私自身は「暮らしを支えるエネルギーや、電気を作る方法の一つである原子力について、皆さんに考えていただくきっかけづくり」が必要だと考えています。そのための仕事として、現在は企画部という部署で、全国でのイベントやセミナーの運営、エネルギー環境教育の一環としてのYouTube動画の制作、ALPS 処理水に係る風評懸念払拭と魚食振興の取り組みについてのYouTube 動画の制作、「高校生によるエネルギー・原子力に関する課題研究活動」の支援などを担当しています。
特に「高校生による課題研究活動」は、全国から選定された10テーマについて、原子力発電所の視察などを通じた研究支援を行い、最終的に東京大学で成果発表をしてもらう大きなイベントです。毎年、この成功に向けて大きな責任を感じますが、とても楽しみにしているイベントの1つでもあります。

2024年度「高校生による課題研究活動」交流会にて
お仕事のやりがいは何ですか?
自分が携わったイベントやセミナーの参加者数やYouTube動画の再生回数が増えるのはもちろん嬉しいです。ただ、それ以上に、数値では測れない成果を感じられる瞬間がやりがいですね。
例えば、「高校生による課題研究活動」では、最初の面談審査のときにはまだアイデアが漠然としていた生徒が、半年後には具体的な成果を東京大学で堂々と発表しているんです。その成長ぶりが表情からも伝わってきて、自信に満ちた姿を見ると「この仕事をしていてよかった」と思います。彼らの努力が大きいのはもちろんですが、研究を深めるためのアドバイスや情報提供を通じて彼らの活動に貢献できたことが、自分にとってのやりがいにつながっています。
どのようなきっかけで原子力に興味をもつようになったのでしょうか?
きっかけは2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故です。当時仙台に住んでいた私は、多くのフェイクニュースを目にしました。「黒い雨が降る」「東北・福島のものは食べられない」など、不安から生じる誤解が広がっていました。私自身、義務教育で放射線について学んだ経験がなかったため、原子力・放射線に対して漠然とした恐怖を感じていました。
そんな中、大学2年生の講義で「食品照射」について知る機会がありました。食品照射とは、放射線を照射することで食品の滅菌や殺菌、品質改良ができる技術です。日本ではジャガイモの芽止めにしか使われていませんが、海外では食中毒防止などを目的に広く活用されています。この技術を知ったとき、「放射線って怖いものではなく、産業の発展にも貢献できるんだ」と目から鱗が落ちました。その後、放射線についてもっと知りたくなり、大学3年生のゼミ選択の際に放射線を専門にしている教授に直談判。「よし!じゃあ私の研究室に来なさい!」と言われ、原子力・放射線の世界に足を踏み入れました。

原子力学会で発表する永田さん
進路を選択したタイミングはいつ頃ですか?
小学生のころから歴史が好きで、社会が一番好きな教科でした。仙台の小学校では修学旅行で福島・会津を訪れることが定番で、男子の間では白虎刀(木刀)を買うのが流行っていました(笑)。その流れで白虎隊の歴史に興味を持ち、NHK大河ドラマで放送された『新選組!』にも夢中になりました。ちょっと話は逸れますが、まさか、今の仕事で歴史とエネルギーを題材に自分がYouTube動画を作るとは思いませんでした。宣伝になりますがぜひ見てください(笑)。
【エネルギー教育コンテンツ「エネルギーアカデミー~エネルギーの歴史篇~」】
しかし、中学生になると理科や数学が得意になり、理数科のある高校へ進学。そこから自然と理系の道を選びました。
学生時代、印象に残っている出来事はありますか?
大学4年生のときには、電源開発株式会社の大間原子力発電所を、修士1年のときには東北電力株式会社の女川原子力発電所を視察する機会がありました。原子力発電所の見学は、冒頭に紹介した「高校生による課題研究活動」でも実施しているのですが、その際に配布するしおりにはいつも「百聞は一見に如かず」と記載しています。私自身、初めて発電所を訪れたときは、建物のスケールの大きさに圧倒されましたね。「でかっ!」と思わず声が出たほどです(笑)。
ほかにも、福島県伊達市の桃の選果場で2週間アルバイトをしたことも印象に残っています。糖度ごとに桃を仕分ける仕事だったのですが、その糖度を測るのに使われていたのが「糖度センサー」。光の屈折を利用して測定する技術で、まるでレントゲンのように桃の内部を”見抜く”ことができるんです。非破壊検査の一種ですね。こういう技術を見るたびに、科学の力ってすごいなと感じます。
今のお仕事の方向性を決めたタイミングはいつでしたか?
大学4年生の春ですね。小学校の頃からの夢であった教員になるか、それとも原子力分野をもっと勉強するか迷いました。最終的に、小学校での教育実習と日本原子力研究開発機構(現在は、量子科学技術研究開発機構)の高崎量子応用研究所での夏季休暇実習の2択で後者を選びました。この時点で「自分はこの業界に進むんだろうな」と感じていました。

原子力分野の未来について、個人的にワクワクすることはありますか?
やはり原子力の産業利用です。自分が原子力や放射線のイメージを変えたのも、産業利用の可能性を知ったことがきっかけでした。 特に食品照射の分野には期待しています。先ほど述べたように、日本ではジャガイモの芽止めにしか使われていませんが、海外では確立された技術であり、殺菌や滅菌にも利用されています。2012年度から義務教育でも放射線を学ぶ機会が増え、中学校3年生の教科書では放射線の産業利用についてもしっかり書かれるようになりました。こうした学びを通じて、放射線の産業的な可能性にワクワクする子どもたちが増えてほしいですね。
最後に学生さんにメッセージをお願いします。
「百聞は一見に如かず」という言葉はまさにその通りなのですが、実はこの言葉には続きがあります。「百見は一行に如かず」、つまり何回も見聞きするだけでなく、それを行動に移すことが何よりも大切だという意味です。
私にとっての「行動」は発電所の見学で得たことを、原子力学会でのポスター発表にして伝えるというアクションでした。皆さんも、学んだことや体験したことをどう活かすか考え、それをアクションに移してみてください。
とはいえ、経験を積むには学生の力だけでは限界がある場面もあります。そこで大事なのは、大人を上手く巻き込むこと。原子力に限らず、多くの業界は皆さんにその魅力を伝えるための機会を提供しています。ぜひ積極的に参加して、自分の未来につなげてください。
そして、原子力業界という世界にも足を踏み入れてくれると嬉しいです!
(今回のインタビューのまとめ)
私は日頃から、永田さんと一緒にお仕事をする機会も多いのですが、
色々な経験をしているな~や、話題に事欠かない方だな~と、つくづく実感するインタビューでした!
ちなみに、当初はこの倍の文量になるほどの充実した内容だったのですが、泣く泣く切って今の量に落ち着きました。
もっと知りたい方は、永田さん本人に直接インタビューしてみてください!(笑)
文・編集/日本原子力文化財団 企画部