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専門家インタビュー

福島第一原子力発電所1~4号機の今後

北海道大学大学院工学研究院教授 奈良林 直 氏 (ならばやし・ただし)

1952年 東京都生まれ。工学博士。東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学専攻修了後、(株) 東芝入社。原子力技術研究所、電力・社会システム技術開発センター主幹などを経て、2005年 北海道大学大学院工学研究科助教授、07年に教授・連携推進部ディレクター。10年から工学研究院エネルギー環境システム部門長

── 1〜4号機の原子炉の状態は現在、どのようになっているのでしょうか。

奈良林 1号機から3号機は炉心が損傷、そして溶融しました。いわゆるメルトダウンという状態になって、その後、炉心の冷却が行われています。各炉心に海水を1回入れてしまっていますので、いろいろな対策を取らないといけない、という状況だと思います。
それから4号機については、炉心に燃料がありませんでした。定期検査中で使用済燃料プールに、全ての燃料を移していましたが水素爆発を起こしてしまいました。最近の調査によると、4号機の非常の排気フィルターの濃度を見ると、3号機の側のほうに放射性物質がいっぱい付いているということなので、3号機から4号機の建屋のほうに放射性物質と水素がきた、ということが確認されています。ということは、4号機は3号機からのもらい水素で爆発したということで、残念ながら1号機から4号機まで爆発をしてしまった。
それから2号機については、水素爆発ではなくて、格納容器の下部が損傷して、その損傷した切れ目から放射性物質が出てしまった、ということだと思います。
事故の当初、「2号機で爆発音がしました」と言った直後に非常に濃い放射能が出ています。これが北西の風に乗って飯舘村などに流れてしまった。地元を放射性物質で汚染してしまった、という非常に残念な状況をつくってしまったのが2号機。そして、3号機の白煙が上がっていた頃、つまり、3月15日、16日にかけて地元に非常に深刻な被害を与えてしまった、ということになります。
この後、私どもが3月28日に日本原子力学会のチームFで、循環注水システムを提案しました。汚染した水を浄化して、また原子炉の冷却水として使う。リサイクルする、という考え方ですね。これで汚染水の垂れ流しが止まったので、メガフロートだ何だと大騒ぎしていましたけれども、水をリサイクルすることによって、それ以上汚染水が増えなくなりました。汚染水の浄化によって汚染水の問題が一つ解決されました。
この循環注水システムによって、水の使用量が減りました。それから、より強力に炉心を冷却することができるようになったので、1号機から3号機まで、たとえば3号機は先週99.7度まで下がって、一応冷温停止状態になったということですね。



循環注水システムによって炉心温度は下がっている


── 原子炉の安定のために、現在どのような状態を目指しているのでしょうか。

奈良林 通常の原子力発電所、健全な炉心の場合には、原子炉が運転を停止した後、炉心を冷やします。そして、100度以下になると、蒸気の発生が少なくなりますので、これをもって冷温停止と言います。
例えば、沸騰しているやかんから出ている蒸気を考えてみてください。100度になって沸騰しているとき、勢いよく蒸気が出ていますね。これが沸騰する前の50度、60度であれば、やかんからわずかに湯気が出る程度です。湯気に乗って放射性物質が外に出てくるわけですから、蒸気を勢いよく出さない状態にする、つまり、100度以下にするというのは非常に大事なことです※。
図1は、我々が提案した循環注水システムです。リサイクルした水を炉心に注水して、この注水流量を増やすことによって炉心の温度を下げることができます。
この循環注水システムは、今、発電所では複数設置されました。最初はアレバ社のもの、それから最近では東芝のサリーというのが設置されたとマスコミ報道されていましたね。これをたくさん設置することによって、複数の系統で炉心をどんどん冷却していくということです。炉心に入れる水を増やすことによって、炉心の温度は下がってきます。
ですから、今、99.7度ですが、この循環注水システムがより強力に働くようになれば、炉心の温度を下げることができますので、より安定な状態にもっていける、と思います。



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図1 循環注水システム


※ 9月29日以降、圧力容器下部の温度が1〜3号機全てで100℃以下となっています


── 原子炉建屋からの放射性物質の放出力は現在どれくらいなのでしょうか。また、その対策は。

奈良林 事故当時、特に3月15日、16日、このときは2号機の格納容器の下が破損をしました。それから3号機が白煙を上げていたのです。この3月15日、16日は、非常に濃い放射性物質が出ていました。このピークの値に比べますと、現在発生している放射性物質の空間線量率は、約1000万分の1まで下がっています※。ですから、発電所自体から出てくる放射性物質はかなり減っている、と思います。
冷温停止が達成されますと、建物から出てくる蒸気が減りますので、次は建物に覆いをかけることができます。その覆いをかける計画でどういうものをつくるか、というのがテレビで報道されていました。
原子炉建屋自身をいろいろな鉄骨に樹脂製のパネルを張り込んで建屋全体を覆う、ということがこれから行われることになります。鉄骨は現地で組み立てると聞いていますので、それを設置してからパネルを張っていくということで、今、無惨な姿になっていますけれども、間もなく覆われた形になります※※。
そのときに密閉状態にできるというのは、冷温停止で100度以下になっているということが大事なんです。


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※ 8月17日、国と東京電力㈱は福島第一原子力発電所から放出される放射性物質の量が、事故直後(3月15日)の推定1000万分の一になったと発表しました

※※ 1号機原子炉建屋のカバー設置工事は10月14日に完了しています



ホウ酸を炉心に入れているので再臨界の心配はない


── 今後、原子炉内での再臨界や水素爆発の可能性はあるのでしょうか。

奈良林 再臨界については当初ずいぶん懸念がされていましたけれども、我々原子力物理を知っている人間からすると、再臨界になる条件がそろうのが非常に難しいんです。均等にウランの燃料棒を配置して、それに適切に水が染み込んでいる状態で初めて再臨界になり得るわけです。
ところが、炉心が溶融して下に落ちて固まってしまいますと、その固まった塊の中には水が入れない。つまり、水が入れないということは、中性子のスピードを落とす水がないので、原子炉の核分裂反応に必要なスピードの遅い熱中性子ができない。ですから、原理的に再臨界というのは非常に起こりにくいです。
さらに、念のためということで中性子を吸収するホウ酸を水に混ぜて炉心に入れていますから、再臨界の心配はないと思います。
水素爆発については、これから建物を密閉したときに、まだ下に固まっている燃料からガンマ線等が出ます。非常にわずかな量ですけれども、これを何か月も放置すると、少しずつ水素が貯まる可能性があります。強いガンマ線、放射線で水が分解して水素と酸素に分かれます。今は原子炉が運転状態ではないので、10桁以上発生量が少なくなっていますから、非常に遅い現象です。これは気にして時々窒素を入れるといったことをしていれば、水素爆発というのも心配しなくて済むようになると思います。ただ、忘れないようにしっかり対策を取っていくことだと思います。


11月1日にキセノン135が検出されたことについて

2号機で再臨界が起きたのではないかと懸念されました。しかし、核分裂を制御するホウ酸を注入してもほぼ同じ濃度のキセノン135が検出されているため再臨界ではないことは明らかで、これは燃料に含まれるキュリウムなどの「自発核分裂」から発生されるものと考えられます。
自発核分裂は通常の原子炉内でもあることで、核分裂が連続していく臨界とは違いますので、再臨界ではありません。臨界になれば、上昇するはずの温度データなどに大きな変化はなく、低下傾向が続いていることからも裏付けられています。ただし、今後も各部の温度や中性子束、キセノンの計測はしっかり行うべきであらゆる点で油断しないようにしっかりと冷温停止と事故収束に取り組むことが必要です。

奈良林 直


── 溜まっていた高レベルの汚染水はどのようになっているのでしょうか。

奈良林 高レベルの汚染水は、原子炉建屋の地下1階に大量に何千トンも溜まっていることが何か月も前に報道されていました。
図2を使って場所を説明します。格納容器のドーナツのほう、圧力抑制室プールの周りに水が溢れて、建物の地下1階に溜まっていた、ということがわかっています。それから、どういう経路を伝わったかわかりませんが、タービン建屋のやはり地下1階に汚染水が出ていた、ということです。
今、この汚染水は吸い取って循環注水システムで浄化をしていますので、少しずつ汚染水は減る、あるいは濃度が低下すると思います。
最終的には、これがどこから漏れたか見つけ出すことも必要になってくると思います。それについては、注水システムの浄化系を強化して、だんだん線量を下げていく、あるいは遠隔操作のロボットを投入することで破損個所を見いだすことが必要になってくると思います。
併せて、どうしても難しい場合には全体をコンクリートで固めてしまう、というような案も聞いていますが、そういったことで汚染水を遮断することが今後必要になってくると思います。


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図2 原子炉建屋の断面図



汚染水を海に通さないように補強工事も必要になる

── 汚染水の地下水への漏洩対策はどのようになっているのでしょうか。

奈良林 高レベルの放射性物質を含む水が海に流れ出してしまうことが、6月くらいにかなり問題になっていました。今、実際に高レベルの汚染水が地震等でどこか傷んだ部分、コンクリートの割れた部分、そういったところで染み出している可能性があります。特にトレンチ等に溢れ出して、高レベルの汚染水をつくってしまっていますから、こういうものは建物の地面の部分を掘って、水を止めるためのグラウトという土壌固化剤を注入したり、あるいは土木工事のときに鉄板を打ち込みますけれども、そういうものを打ち込んで、しっかり土の中に水を通さない壁をつくる、ということが必要だと思います。
原子炉建屋の周りとか、あるいは海岸のところの護岸をしっかり汚染水を通さないように補強をしていく。こういう土木工事が必要になります。



── 工程表のステップ2の達成に向けて重要な問題はどのようなことでしょうか。

奈良林 今、汚染水の処理にゼオライトという物質を使っています。これは放射性物質を吸着するのに非常に優れた材料です。これは国内に大量に存在しており製品として売られています。今、こういうゼオライトを使って放射性物質、セシウム等を吸着していますが、これがかなりの量が発生していると聞いています。
これから数年間にわたって、循環注水システムを動かしていかなければいけないため、放射性物質を吸着したゼオライトがたくさん出ますので、こういったものをドラム缶等に詰めて、この敷地内に中間貯蔵しなければいけません。保管の仕方まで含めて、きちんと対策を考えていかなければいけないと思います。



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溶融した燃料を取り出し安全に保管することが必要に

── 今後は、どのような作業が必要になっていくのでしょうか。

奈良林 これから数年間にわたって冷却を続ける必要があります。これは絶え間なく冷却し続けなければいけません。安定した冷却システムというのが非常に大事ですし、これを注意深く運転し続けなければいけません。今のシステムは仮設のシステムですから、これからしっかりした恒久的なシステムに置き換えていく必要があると思います。
併せて今、原子炉の中の燃料が溶融、メルトダウンをしています。それが今どこにあるか、ということもこれから突き止めていかなければなりません。
アメリカのスリーマイルアイランド原子力発電所の事故では、溶融した燃料は最終的に、大きな固まった石(卵といわれている)のようになっていました。これ回収して、核燃料を扱える施設に貨車で運搬しました。
福島においてもやはりそれをしなければいけないと思います。原子炉の真下にはペデスタルと呼ばれている円筒状の厚さ1メートル以上あるコンクリートがありますが、ここに溶融した燃料が落ちていると思います。これをきちんと調査して、どこにどのくらいの量が落ちているか、これを明らかにするということがこれから必要です。
さらに、これを重機でかき取って、きちんと遮へいがついた容器に納めることまでやらなければいけません。つまり、炉心からペデスタルの下まで溶融した燃料が固化していると思いますが、これを最終的に取り出して安全な状態に保管する、ということをこれからやっていかなければいけないと思います。これはおそらく数十年というようなオーダーで時間がかかると思います。
これまで、日本のロボットはなかなか活躍しませんでしたが、このような放射線が非常に強い環境下でしっかりした作業ができる、重たいものを運搬できるロボットを日本の総力を挙げて開発する必要があると思います。



 

(2011年10月7日)

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