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温室効果ガス排出削減は2030年の数字をどうするかが問題だ


2013年12月5日


profile

工藤 拓毅 氏(くどう ひろき)
(一財)日本エネルギー経済研究所・研究理事


1961年埼玉県生まれ。麻布大学環境保健学部卒業、筑波大学大学院環境科学研究科修了。平成3年(財)日本エネルギー経済研究所入所。総合研究部環境グループマネージャー、地球温暖化政策グループマネージャーなどを歴任。地球環境ユニット担任補佐兼グリーンエネルギー認証センター副センター長も務めている。



── 11月23日に国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)が1日延長して閉幕しました。まず、2020年に始まる新枠組みに至るまでのCOPの流れを教えてください。

工藤 COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)の後ろの数字19は、これまでに開催された会議の数です。COP開催の大元である気候変動枠組み条約が発効してから毎年1回、19回会議を重ねて現在に至っています。


地球温暖化に対する国際交渉の流れ

地球温暖化に対する国際交渉の流れ
(提供:工藤 拓毅 氏)



気候変動枠組み条約は1994年に発効し、1997年に京都で開かれた会議(COP3)で「京都議定書」が採択されました。京都議定書は、先進国でCO2などの温室効果ガスの排出量を2008年から2012年までの目標値として定め、規制しようという取り組みでした。気候変動枠組み条約は、「温室効果ガスの排出が増えることによって気候変動が起こらないようにさまざまな対応をしよう」というもののため、本来は非常に長い期間取り組まなければなりません。しかし、採択したのは1997年ですから、京都議定書の期間はとりあえず十数年先程度のものとなりました。その後2005年に京都議定書が発効し、まずは2008年から2012年までの期間で日本を含めた先進国は目標達成に努力してきました。

また、京都議定書には「議定書発効後に2012年以降についての話し合いを始める」ことも書いてあるため、2005年の議定書発効と同時に「2012年以降の国際的な枠組みはどのようなものにするか」という議論が開始されました。現在まで、さまざまな会議を重ねてきましたが、その中で、2020年から始まる新たな枠組みの構造を2015年までに決めるということが、決定されてきたのです。

今回のCOP19は、その中でどういう位置づけかというと、2015年までに目標の枠組みを決めなければならないため、それに至る手順や考え方などのさまざまな流れをしっかりとつくり込む、というものだったと思います。


日本の京都議定書離脱説の意味とは


工藤 京都議定書の最大の問題は、世界全体で見て大量に温室効果ガスを排出している国の一つであるアメリカが、クリントン政権のときには京都議定書の採択に尽力したのですが、ブッシュ政権に代わって京都議定書の約束は飲めないということで議定書の批准をせず、京都議定書の目標が課せられない状態になったことです。

もう一つは、世界で最大のCO2排出国である中国が途上国に分類されるということです。京都議定書の排出目標はあくまでも先進国が約束をする、途上国は目標が課せられないことになっていたため、中国も目標の約束はしていませんでした。

アメリカと中国の2か国で世界全体のGHG(温室効果ガス)排出量の4割近くにもなるため「アメリカと中国が不参加の京都議定書を延長したところでどのくらい意味があるのか」が特に日本から一つの問題提起として出したのです。その結果、日本政府はCOP17(南アフリカ・ダーバン)で新しい枠組みの考え方と京都議定書とのバランスをとるために「京都議定書では国際的な気候変動対策としての有効性が少ないため、京都議定書の第二約束期間、すなわち2013年以降の約束については、日本は入らない。しかし、アメリカや中国も参加する本当の意味で効果のある新しい枠組みをつくり上げることに貢献する」としました。これが「日本の京都議定書離脱」の意味です。でも、実際には、日本は京都議定書から離脱はしていません。

ですから、日本は「全く削減に貢献しない」と言ったわけではなく、本当の意味で国際的な枠組みで効果のあることをやらなければだめだ、という必要性を行動で示したのです。


GHG(温室効果ガス)排出量のシェ

GHG(温室効果ガス)排出量のシェア
(提供:工藤 拓毅 氏)

 


── 今回のCOP19で話し合われたことのポイントと今後の課題については、いかがでしょうか。

工藤 2015年までにアメリカや中国も含めて、より多くの国が参加できるような枠組みに合意する、下準備をすることがCOP19の大事な役割でした。

そういう意味では「可能であるならば」「準備ができた国は」というような言い方をしていますが、「基本的に2015年3月までに2020年以降の貢献を報告する」ということが決定文書の中に書かれました。ただ「目標年はいつか」「どのような中身か」という具体的なことについてはまだ決まっていませんが、各国がある程度の目標を出すことと、その年の暮れにパリで開かれるCOP21での合意に向け、「目標値を参考にしながらいろいろな意味での議論をする」という手続きが決まったがことが大きなポイントです。

一方で、この国際的な枠組みの最大の問題は「加盟各国がすべて合意に基づいて決めていく」ことになっているのですが、どうしても出てきてしまうのは、先進国と途上国の意見の相違です。途上国からすれば、「先進国のこれまでの経済成長等による影響が大きい」と。先進国からすれば、先ほどの日本の主張のとおり「今後伸びていくのは途上国で、特に中国やインド等の新興国が入ってない。途上国も含めてみんなが貢献しなければ無理だ」、というような意見の違いです。

今回もそういった双方の見方の違いに関連して、途上国への支援に対して、先進国と途上国の間で意見の相違点が出てきました。2020年以降の枠組み、目標を決めようと言ってはいながら、途上国は能力が少なく、お金も足りません。そして今年、フィリピンが台風によって大きな被害を受けたことは今回の会議の中で一番大きなトピックスとなりました。フィリピン等で起こっている台風の被害は実は気候変動と密接に関係あるだろう、ということが問題提起され、新たな取り組みをしていこうということになったのです。

具体的には、何かしらの気候変動による影響を回避するような取り組みに対しては、以前から先進国が途上国を支援していくという制度の検討が進んできたのですが、今回はそれに加えて、フィリピンのように実際に起こった被害に対してもどうするかを考えなければならないのではないか、ということが提起されたのです。

先進国は「途上国を含めた目標に早く移行したい」、その一方で途上国は「それもあるけど、実は資金支援や技術支援が大事だ」となりますから、目標を双方で合意するためには、資金や技術支援の問題を同時によく話し合わなければならないのです。決めることはたくさんありますが、2015年に向けた道筋のようなものが取りあえず継続的にできた一方で、こうした支援等に関する途上国の意向に対して今後先進国がどう対応するかという宿題が、今回の会議でまた出てきたのです。

 


原子力発電所が再稼働していくとCO2排出量はより減っていく


── 今回の会議で日本は、2020年の目標を1990年比で-25%から2005年比-3.8%(1990年比+3%)に修正することを打ち出しました。これは原子力抜きでの数値目標ですね。

工藤 この数字は国際交渉に向け、政治的判断で決められて提起されました。実際にこの数字の根拠となる資料をみても、「どういうようなことを通じて」ということがあまり書かれていないので、これの達成云々に対して評価をすることは今の状況では難しいですね。

ただ、はっきりしていることは、この数字をつくるに当たって配慮された一つのシナリオは、原子力がほとんど稼働してない状況での電力の排出原単位をベースに、将来の排出量を算定しているので、原子力発電所の再稼働が今後順次行われてくるケースを考えれば、CO2排出量はより減っていく可能性があります。

つまり、原子力や再生可能エネルギーにより供給側の低炭素化が進めば、この数字そのものの達成可能性は高くなる、もしくはもっと深堀りすることができる可能性を否定はしない、そういう性格のものだと思います。

 

── しかし、この新目標値に対して世界各国から厳しい意見があったということですが。

工藤 今回のCOP19では2020年以降の目標をいろいろ考えることと並行して、「2020年に向けてもっと野心的な行動目標を先進各国から出そう」ということが議論されていたのです。その流れの中で突然、日本が鳩山政権時に出していた「25%削減」よりも大幅に緩い数字を出してきて、その流れに水を差したという観点で批判が集まったのです。3.11で原子力発電所がすべてストップしている日本の状況は各国ともわかっているはずですが、交渉プロセスの中で目指している方向性と逆行するので批判があったということです。

一方で、日本の震災後の現状を考えれば、原子力の再稼働があったとしてもですが、もし“再稼働なかりせば”で考えると、相当の省エネをやらないと、この日本の目標達成は無理です。各国の中にはその状況を理解してくれる国もあった、とも聞いています。

 


日本はCO2排出量と合わせて「エネルギー基本計画」を検討する必要がある


── 京都議定書に不参加だったアメリカ、中国の削減目標はどのようになっているのでしょうか。

工藤 2010年のCOP16(メキシコ・カンクン)の「カンクン合意」で2か国が出してきた数値目標、行動目標があります。日本はその時25%削減を出したのですが、アメリカ、中国など比較的排出量が大きい国も2020年の目標を出しています。

アメリカは、2020年に2005年比17%程度削減としましたが、最近のシェール革命でシェールガスやシェールオイルが採れるようになり、特にガスが安くアメリカ国内で調達できるようになったため、ガスの価格競争力が上がり、石炭火力発電所からガス火力にシフトする傾向があります。ガス火力は石炭火力よりもCO2排出量が低減できるため、目標達成の可能性は高くなっています。

中国は、原単位目標を出しています。原単位、すなわち経済規模当たりのCO2排出量なのですが、2020年のGDP当たりCO2排出量を2005年比で40~45%削減とする自発的目標を出しています。これは経済がある程度伸びても、CO2排出量の増加率が経済の成長率よりも低ければよいという目標です。問題はその先の話で、各国がそれぞれ考えてこれから目標を出してくることになっています。

例えば、ヨーロッパでも2013年の初め頃から「ヨーロッパの先の目標を決めましょう」というような議論が始まっています。2015年の早い時期くらいまでに、2030年頃を目安にしたヨーロッパ全体の排出目標の数字が出てくるのではないかと見込まれています。ですので、次の目標は何かというと、一つの目安として2030年での目標値がターゲットになる可能性があります。

日本でも今「エネルギー基本計画」を再検討していますが、そこでのターゲット・イヤーも2030年です。ですから、日本の目標値-3.8%が2020年にどうなるのか、という話もありますが、現実的な議論では2030年の数字をどうするかが問題です。エネルギーのビジョンをつくっていくと、その結果としてCO2排出量が導かれますが、その数字を国際的に本当に約束していいかどうかも合わせて、エネルギー利用の計画を考えていく必要があると思います。

 


── 温暖化を防ぐためと国際競争という観点から見たときに、今後の日本のエネルギーをどう考えていったらよいでしょうか。

工藤 現在の経済・社会状況でCO2排出削減の政策的な優先順位をどう位置づけるかは、政治的には相当難しいことです。民主党政権時の排出削減25%目標のときに描いた、かなりチャレンジングな行動計画の裏返しで、3.11以降のエネルギーの見直しをするに当たっては、やはり日本の持続的な経済成長の実現にきちんと配慮したものにしなければならないと思います。

そのためには、日本の企業なり社会の活力をできるだけ阻害しないエネルギー需給構造にもっていく必要があります。エネルギーコストが上昇し続け、供給力の観点でリスクがあることになってしまうと、日本の稼ぎ頭の製造業などの企業経営者は当然「日本国内でやっていけるのか?」と考えるようになってしまいます。そのような流れをつくってしまうと、日本経済そのものの活力が阻害され、結局、地球温暖化対策も進まないかもしれません。

ですから、できるだけ経済を阻害しないようなエネルギーコストを実現すること、かつ安定的にエネルギーを供給確保するという視点が、当たり前なのですが、再度いま求められています。

そういう2つの観点から、持続的な経済を実現するためのエネルギー需給構造の実現に向け「原子力はどう貢献できるのか」「再エネはどう貢献できるのか」というように各エネルギー源を検証・判断していくことが、今のエネルギー基本計画でも問われていることだと思います。

そのことと、「CO2の排出削減をどうしていくか」との組み合せになってくるでしょう。そのバランスは、エネルギーのビジョン、方向性を考えた上でしっかり見定めていく必要があると思っています。

 

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