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原子力を使ってきたのは「3E」をすべて満たすエネルギーだったからだ


2014年4月23日


profile

村上 朋子 氏(むらかみ ともこ)
(一財)日本エネルギー経済研究所
原子力グループマネージャー 研究主幹


広島県生まれ。東京大学大学院工学研究系研究科原子力工学専攻修士課程修了後、(株)日本原子力発電入社。発電管理室主任、廃止措置プロジェクト推進室主任などを歴任。その間に、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了、経営学修士に。2005年に日本エネルギー経済研究所入所。原子力グループリーダーなどを経て現職。



今後の日本のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」が4月に閣議決定されました。これは、平成14年に施行された「エネルギー政策基本法」に基づいてエネルギー需給に関する基本的な計画をまとめたもので、今回で4回目となります。そこで、今回の新たな「エネルギー基本計画」につきまして、日本エネルギー経済研究所の研究主幹の村上朋子氏にお聞きしました。



── 4月に新たな「エネルギー基本計画」が閣議決定されました。2012年の民主党政権時の「革新的エネルギー・環境戦略」以来で、これからの日本のエネルギー政策の指針となるものということですが。


村上 エネルギー資源を海外から買わざるを得ないわが国は、海外から石油、ガス、石炭、それから原子力の燃料であるウランなどを輸入してエネルギーを使っています。その調達を、無策に場当たり的にただ買って発電なり熱源なりに使っていますと、例えば海外で不測の事態が起きて石油やガスが入らなくなったり、値段が急に上がってしまい、我々が払い切れない電気料金やガス代になってしまったりすることが起こるようでは国民生活が困ります。


そうならないように、または、もしそうなったとしてもその影響を最小限に抑えられるように、いかに安く安定的にエネルギーを供給していくためにはどうしたらいいか、を長期的な戦略に立って考え、それを国民の皆さんにもわかりやすく示す目的でつくられているのが「エネルギー基本計画」だと思います。


2002年(平成14年)に施行された「エネルギー政策基本法」に基づいて策定されて、今回で4回目になります。


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主要国のエネルギー輸入依存度
以下全図表(出典:「原子力・エネルギー図面集2014」日本原子力文化財団)



エネルギー選択の視点、「経済効率性の向上」「安定供給性」「環境との適合性」と「安全」の「3E+S」


── 「革新的エネルギー・環境戦略」から、どのように変わったのでしょうか。


村上 原子力の比率を2030年代にゼロとしていたのは消されて、「重要なベースロード電源」であると位置づけられましたので、ここだけ見ると、かなり方向転換に見えるのですが、基本の考え方は変わっていません。


「エネルギー基本計画」は5章から成る構成になっていて、第1章でわが国が置かれたエネルギー状況を解説しています。海外のエネルギー依存度が高くて輸入に頼らねばならない、あるいは成熟した社会でこれから人口も減っていく中、産業構造を見直さないといけない。さらに3年前に福島第一原発事故が起きて、その結果、化石燃料の依存度が上がり、電気料金も上がっている。しかも事故と並行して世界で資源争奪戦や紛争が起きたりしている。こうした環境から、わが国のエネルギー政策は大規模な調整を求められる事態に直面している。その1つのポイントとして、原子力の安定供給性があるとしています。


その次に、その状況を受けて基本的な考え方を再確認しています。これは再確認であって、以前と変わってはいなくて、従来から言われてきた「経済効率性の向上(Economic Efficiency)」「安定供給性(Energy security)」「環境への適合性(Environmental)」、この3Eに加えて「安全(Safety)」の「3E+S」を基本にしなければならないということで、基本方針を繰り返しています。これは民主党時代に立てられた「革新的エネルギー・環境戦略」となんら矛盾するものではありません。


次にそれを受けて各エネルギーの各論に入っています。原子力だけではなくて、化石エネルギーの安定調達や再生可能エネルギーの利用拡大、あるいは電力・ガスの市場改革や供給途絶リスク対応、エネルギーの利用高度化、低炭素化、コジェネ、水素の活用、そのような各論になっています。


「革新的エネルギー・環境戦略」と大きく変わったのは、原子力の比率や位置づけだけです。あとは「再生可能エネルギーに一層の力を入れる」が変わったくらいで、そのほかは特に変わっていません。


原子力ばかりが報道されるので、方向の大転換のように言われますが、日本が置かれたエネルギーの状況をきちんと見て、問題点を把握し、それに沿った戦略を立てていかねばならないところは全く共通しているので、あとはその手段として何に力点を置くかがいろいろな意見を踏まえて方向が修正されただけのものだと思います。

 


── 原子力の位置づけについて具体的に教えて下さい。


村上 原子力の位置づけとしてよく報道されているのは、「重要なベースロード電源」で「重要」を入れるか、「ベースロード」を入れるか、「基幹電源」かということですが、同じことで、言葉の使い方以前に「エネルギー基本計画」には、原子力の良いところがたくさん書いてあります。


基本方針の3Eの観点に照らして、「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる準国産エネルギーであり、優れた安定供給性と効率性があり、運転コストが低廉で変動も少ない。運転時には温室効果ガスの排出もない」。「3Eのすべてを満足している」と言っています。これだけ褒めたたえているので、「重要なベースロード電源」という言葉はなくてもいいくらいです。


その後で、政策の方向性としては「いかなる事情よりも安全性を優先」と書いてあります。「安全性を優先」と言っても、福島第一原発事故以前から安全性に懸念があることは皆さんよくわかっています。


つまり原子力は3Eのすべてを満たしているが、Sで懸念があるがために、「重要なベースロード電源であることは間違いないが、依存度は可能な限り低減」としています。


では、やめていくのかというと、そうではなくて、「確保していく規模を見極める」と、何が言いたいのかわからないことになっています。

 


化石燃料への依存度が90%の現状はエネルギー安全保障上由々しき事態だ


── どういう観点から、安全に懸念がありながらも原子力をベースロード電源として使っていく、としたのでしょうか。


村上 それは日本が脱原子力状態でもう2年近く過ごしてきて、その結果起きている現実がすべてです。


化石燃料の輸入量が震災前の1.3~1.5倍になっています。量的な増加もさりながら、価格が高いので年間3.6兆円輸入額増になりました。今まで電力会社の必死の経営努力により電気料金の値上げも最小限に抑えられていたのですが、それでは済まなくなって、値上げになっています。


そういった経済的なインパクトもさりながら、今、電源の90%近くが化石燃料に依存しているという現実自体、エネルギー安全保障の観点からは十分すぎるくらい由々しき事態です。特に化石燃料の半分近くがガス、石炭で、石油も大幅に増えてしまっている現状は、極めて脆弱なエネルギー供給構造としか言いようがない状態になっています。


ですから、「原子力規制委員会の基準に適合すると認められた原発は再稼働を進める」としているのですね。


 

── 原発が止まり、電気料金は事故前に比べて東京電力で約4割、関西電力で約3割も上がっているようです。


村上 ええ。インパクトはもうすでに経営の厳しい中小企業には及んでいます。脱原子力が議論されて、原子力発電所が止まっていった2011年夏くらいから、原材料費と電気代が費用の大半を占める中小企業の経営者の方から切実な声が上がっていました。家庭より産業用の電気料金の設定はもともと高いですから、もっと厳しいのです。「それでなくても工場の稼働も分単位で管理して、コストを切り詰めて管理しているのに、ここで値上げをされたらたまらない。数%といっても節電すれば済むような量ではない」といった声は聞いていました。ギリギリで運転しているところで節電するには、事業を縮小するしかないのです。


それが一般の人々の生活にはなかなか反映しにくいのです。日本のような産業の基盤が強い国は、弱いところが何社かつぶれても強い何社かが生き残れば、それで国民の皆さんは生活ができてしまうので、なかなか問題が顕在化しません。


こういう事態を含めて、福島第一原発事故の4日後に発せられたウクライナ首相の「お金持ちの国だけが脱原子力の議論ができる」という発言が改めて思い出されます。ガスや石炭、石油の輸入価格が上がって電気料金や素材費などを圧迫したとしても、国民はちょっと節電するくらいで、ごく普通に当たり前に生活ができていて、「日本は豊かな国でよかった」とつくづく思います。

 


── しかし、円安や化石燃料の輸入増などで昨年度の日本の貿易赤字が13兆7500億、3年連続で過去最大となったということで、経済への影響が心配されます。


村上 貿易のバランスというのは、赤字だから悪い、黒字だからいい、と単純な問題でもないのですが、これだけの赤字がずっと続いていくとなると、国民の皆さんに見える形では、失業率がいつの間にか、例えばヨーロッパで経済が落ち込んでいるような国並みに上がってしまいます。考えられる最大のインパクトはそれです。


貿易赤字が直結するのは、産業部門で、特に素材を輸入に頼っている中小企業がまず打撃を受けます。大企業は調達先を海外にしたり、事業拠点を海外に移転するので、そうなると国内の雇用が当然なくなります。いくら海外に移転してもしわ寄せはくるので、消費税増税のせいばかりではなく、5年前と比べると価格が上がってしまう。もともと生活を切り詰めざるを得ない低所得層の人が打撃を受け、いつの間にか新卒の就職率が悪くなって、といったことが起きてくることになります。


 

再生可能エネルギーの固定価格買取り制度だけでは目標達成は無理だ


── 再生可能エネルギーについては、発電量に占める割合で2020年に13.5%、30年に20%と目標値が示されました。現状から考えると相当な伸びになりますね。


村上 どうやって達成するつもりなのでしょうか。2012年に始まった「再生可能エネルギーの固定価格買取り制度:Feed-in-Tariff(FiT)」でかなり高い価格をつければ、事業者はどんどん乗ってくる、そういう見方はすでに破綻していると思います。現に、確実に儲かると事業者の間で言われた太陽光のキロワットアワー当たり42円もすでに価格が下がって、誰でも確実に勝てるような値段ではなくなった。さらに、予想されたことではありますが、駆け込みで42円の間に申請をしたはいいが事業が成立しなくて、結局いつまで経っても建てられない事例が増加しています。こうしたことを考えますと、FiTの制度だけで目標の達成を図るのは無理です。


それから、風力も本来ならば無理をしなくても事業として成立し得る適地があるのに、適地でないところばかり開発をしようとして、うまくいかない事例があると専門家が指摘しています。


風力や太陽光の開発の事業者が、技術的な条件や系統接続の条件などをもう少し見極めて適地を探せば、違うという気はするのですが。


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新エネルギーの評価と課題


 

── 再生可能エネルギーは、何キロワットとか設備容量だけに目がいって、稼働率の問題はあまり語られませんが、火力や原子力と比べて稼働率が悪く10%、20%だったら、例えば100万キロワットの設備があっても発電量はわずかです。


村上 そう思います。稼働率が20%程度といわれる風力はもうちょっと上げられる要素はあると思いますが、10数%の太陽光はこれ以上大幅に稼働率を上げられない。どんなに技術革新をしても40%、50%になることはありません。規模で稼ぐしかないのです。その有効な手段があるかと言われると、ひたすらパネルを並べるやり方しかなくて、遊休地がいくらあっても追いつけるかどうか。


日本の平均的な風力の稼働率は20%もありませんが、2013年にイギリスで平均稼働率が30%を達成しました。イギリスは洋上風力も相当入れていますが、主力は陸上風力ですので、陸上風力で30%が達成できるのですから、風力のほうが設備利用率の伸びは期待できるのかなと思います。

 


── 風力が盛んなドイツでは、固定価格買取り制度による電力料金の高騰で、だいぶ苦しんでいるようですね。


村上 FiTにより、日本は今年度は、標準家庭で月225円の上乗せですが、ドイツでは約2600円の上乗せとなっているようで、見直しが進められています。


ドイツはもともと政策的にかなり無理をして、原子力をやめて安い石炭火力を入れてきた経緯がありますが、そういう状況です。


もう一つの問題は連系線の設備容量が需要にフレキシブルに対応するまでの力がないことです。


理想を言えば、FiTに引きずられずに再生可能エネルギーの導入が進むことですが、再生可能エネルギーを利用することに関するメリット、デメリットの議論が日本よりはるかに進んでいる国ですので、いずれ議論はまとまるのではないかなと期待はしています。

 


原子力は要らなかったと短絡的に思われることが心配だ


── 今後の原子力発電の再稼働問題はどうお考えでしょうか。


村上 海外から見ると、これは客観的にと言い換えてもいいと思いますが、「何で48基全部が停止にならないといけないの?」という感じですね。確かに大事故が起きましたが、それで2年のうちに急速に脱原子力してしまった国は、日本が初めてです。


そもそも原子力を使ってきた理由は、原子力が絶対安全だからではなくて、エネルギーの必要上、安定的で発電コストが安くて、3Eをすべて満たすエネルギーだったからです。


福島並みの事故は世界で3つしか起きていませんが、ウクライナでもチェルノブイリの4号機事故の後、残り3基は10年以上稼働させていましたし、アメリカのスリーマイルアイランド2号機事故の後、1号機は今も稼働しています。基本的に事故はそれ以降の技術革新ないしは改良によって克服できるという信念の下、各国は進めてきたのです。それは世界共通の視点であったはずなのに、なぜ日本が、これまで3Eの観点から使っていた原子力をいきなりやめねばならないのか。再稼働に関して、福島事故の直接要因ではない原因まで全部洗い出すまで運転はまかりならぬと言うのか。私にはここは非常に不可解です。


「原子力がなくて3年生活できている日本は、原子力は要らなかったんだ」と短絡的に思われることが心配ですね。


 

世界で脱原子力をした国はイタリアとリトアニアしかない


── 3.11前には、さんざん騒がれていたCO2排出増も顧みず、老朽化した火力をフル稼働させたりして綱渡り的にしのいできているようですね。


村上 そうですね。


世界で脱原子力をした国はイタリアとリトアニアしかないのですが、イタリアはちょっと似た経路をたどっています。かつては世界の中でも有数の原子力技術国で、比較的早期に原子力開発を始めて商業利用を始めたイタリアが、スリーマイル事故をきっかけに大論争をして、やめると決断し、1990年には全部の原子炉を止めてしまって今に至っている。


では、イタリアの原子炉は危険だったのかというと、全然そんなことはなくて、結局のところ国民が「原子力はなくてもいい」という選択をした結果です。ヨーロッパは送電網がつながっていますから、日本と違って電力の輸入が容易にできることもひとつあります。


そのかわり、イタリアの電気料金はヨーロッパの中でも、一番ではありませんが、かなり高いほうです。その上に、かなりの量のガスをロシアからパイプラインで持ってきています。ガスの使用量をロシアへの依存で支えているのは、安全保障上とても危なっかしく見えます。同じことに今、日本が陥ろうとしています。

 


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主要国の電源別発電電力量の構成比


── ウクライナ問題から、欧州全体で3割もエネルギーをロシアに頼っていることがクローズアップされました。


村上 ええ。ロシアのガス依存については、例えばフィンランドはガス自体の比率はあまり高くありませんが、ガス全量がロシアからだったと思います。ほかにも全量とはいかないまでも半分以上がロシアからのガスという国は少なくありません。


他国にそれだけ依存するのはやはり怖いですね。日本は、40年前の「オイルショック」のときにそれを痛感したから、エネルギーの調達先やエネルギー源の多様化、原子力開発の促進などと併せて省エネに一生懸命取り組んできたのですね。その結果、例えば2007年の原油価格高騰の時も電気料金やガス料金への影響はかなり低かったのです。そうしたことは、はっきりデータで出ているのです。

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