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「3E+S」の視点からみたエネルギーの選択が重要だ


2013年8月22日


profile

秋元 圭吾 氏(あきもと けいご)
(公財)地球環境産業技術研究機構・システム研究グループリーダー


1970年 富山県生まれ。工学博士。94年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業、同大学院工学研究科を修了後、(財)地球環境産業技術研究機構に入所。システム研究グループ主任研究員を経て現職。専門は、エネルギー・地球環境を中心としたシステム、政策の分析・評価。『低炭素エコノミー―温暖化対策目標と国民負担』などの共著書がある。


── この4月に環境省が出した見解では、京都議定書の約束値(2008年~2011年のCO排出量が1990年比マイナス6%)は達成見込みのようです。


秋元 これは、おそらく達成できると思います。と言うのは、2009年の世界経済危機でCO排出量が大幅に減ったのです。部分的には努力の効果もあるのですが、それ以上に経済危機の影響が大きく、ほぼ確実に京都議定書は達成できると思います。

しかし、3.11以降、原子力発電が停止して以来、火力発電の燃料である化石燃料の焚き増しによって、COは相当量増加してきており、2012年度の実績数字は、かなり増えて出てくるはずです。ですから、京都議定書を達成できたかどうかより、COが温暖化にどれくらい寄与したのかという意味では、大きな悪影響を及ぼしているというのが実情です。京都議定書達成が私たちの目的ではなく、温暖化を抑制する、防止することが目的ですから、今後このままCOを増やし続けると、世界的に温暖化問題が再燃することになると思います。

世界のCO排出に占める日本の割合は4%で、割合としてそう大きくはありません。ですから、世界全体での排出削減の中でバランスの取れた対策が必要です。民主党政権時の鳩山さんが掲げた25%削減目標のように、何が何でも国内で大幅に排出量を削減することには、私は賛成できませんが、国内でも削減はすべきだし、海外で貢献して削減する部分ももちながら、対策していかなければなりません。

温暖化をいかに効果的に抑制し、防止していくかは、長期的にどう排出削減していくかが重要です。原子力発電所が停まり、化石燃料の使用が増えている、しかも、福島の事故以前は「温暖化、温暖化」と声を大にして言っていた人たちが温暖化防止よりも原発を停めることが目的化しているような今の状況に非常に危機感を持っています。

 


重要なのは、持続的にCOを削減していけるかどうかだ


── 確かに、福島事故以降は温暖化やCO排出削減についての話題や報道がすっかり減りました。


秋元 やはり優先順位が変わったのです。温暖化対策も重要ですが、3.11以降は原子力が使えない分のエネルギーをどう賄うかや経済の問題も重要なので、あまりCO削減をやり過ぎれば経済に悪影響が及ぶので、やり過ぎもいけないと思います。しかし、急に温暖化の優先順位が下がってしまって、人によっては軽視し過ぎのような状況になっていますので、これもやはり危ういことです。重要なのは、持続的にCOを削減していくのかどうかです。

 


── 3.11をきっかけに、再生可能エネルギーへの期待は大きくなりましたが、実際の可能性はどうなのでしょうか。


秋元 私自身は再生可能エネルギーを増やしていくことには大賛成です。

今、日本に導入している再生可能エネルギーは、水力を除けば、2%弱くらいで、量的には非常に小さいので、それを増やしていくことは重要なことです。

ただ、スピード感を考えなければならなくて、今の固定価格買取制度の下で価格の高い太陽光発電が急速に入ってきているのは相当問題があると思います。

これは海外でも同じですが、太陽光発電の導入を大幅に推進したスペインやイタリア、ドイツは自身でほとんど失敗だったと考えている状況で、これ以上増やすのは耐え難いという状況です。

しかも、固定価格買取制度の場合は、1回導入すると、買取価格が10年、20年固定して、累積的に膨れ上がっていき、あっという間に電気料金が上がってしまうのです。

実際にドイツでも電力料金がものすごく上がり、「これでは産業は成り立たなくなる」という状況になっています。ですから、産業の電気料金上昇を抑えて、その分を家庭に付け替えていますが、その家庭も、「こんなに高い電気料金は約束と違う」ということになっているのです。これがヨーロッパの現状です。

アメリカもオバマ政権が誕生したときは、グリーン・ニューディール、グリーン経済などと標榜して、再生可能エネルギーにかなり入れ込んだのですが、実際にはうまくいかず、雇用もほとんど発生しなかったというのが今の評価だと思います。

再生可能エネルギーを導入すると雇用が増えると言う人がいますが、高いエネルギーを導入しようとして、そこに高いお金を払うのですから、雇用が大きくなるのは当然なのです。しかし、高いお金を払うと、別のところにお金が払えなくなり、そちらの雇用が減るので、再生可能エネルギーで雇用が増えただけをカウントして「こんなに増える」と言っても全く意味がありません。経済全体として雇用が増えるのかどうかを評価しなければならないのです。

エネルギーは、同じ「エネルギー」であれば、同じ効用しか得られません。例えば、電気という形になった場合には、コストの高い再生可能エネルギーからつくっても、安い原子力から供給しても最後得られる効用は基本的には同じ電気という形でしか受けません。

そうした場合、なるべく安いエネルギーで供給を受ければ、そこで浮いたお金は別のものに消費できたりします。そうすると、社会はより幸せになれる。経済も活性化して、経済が成長する度合いが大きくなるのです。

要は、なるべく安価な電気を安定的に供給することが経済成長の基礎になります。高い再生可能エネルギーに投資することは、そこの雇用は生じるかもしれませんが、それを代替したところの部分ではむしろ下がって、全体として見たら経済には悪影響が出る、というのが経済的な評価だと思います。

また、「再生可能エネルギーは、今は高いが、将来は原子力よりも安くなるかもしれない。だから今、投資すればいいじゃないか」という話も聞きます。再生可能エネルギーはエネルギー密度の非常に薄いものから電気が取り出されています。一方、原子力や化石燃料は、エネルギー密度の高いところから取り出すので、技術的な障壁は小さくて、物理現象として相対的には安くつくれるのです。再生可能エネルギーはそれよりもハードルが絶対的に高いのです。

ですから、将来にわたって化石燃料や原子力よりも再生可能エネルギーのほうが安くできるのかというと、近づくことはできるかもしれませんが、超えることは相当難しい、と私は思っています。

このような認識の下に立つと、再生可能エネルギーは部分的に安くなるに応じて増やしていくことは必要だし、原子力がなかなか拡大できない中、温暖化対策として、COを排出しないという意味では再生可能エネルギーは重要です。高くても一部は使っていくべきだとは思いますが、過大に導入し過ぎると経済に影響し、雇用はむしろ失われるので、注意して使っていかなければならないと思います。

 

電気料金が上がらないように手を打っていく必要がある


── 原子力発電がストップし、その分、化石燃料費がどんどん増えたこともあり、貿易赤字が過去最高というような報道もありました。今後、経済への影響はどうみたらいいのでしょうか。


秋元 今、原発が停まっていることによって年間約4兆円というペースで化石燃料の費用が増えています。これは海外に払っているお金で、日本国内に留まらないので、その分確実に国益が失われているのです。それに対する認識があまりに低いのではないでしょうか。

これが数年続けば、国民生活にとって非常に大きなダメージになってくると思います。今は、電力会社の資金を吐き出して賄っているため、まだ電気料金に転嫁された分は一部ですが、いずれにしても日本の財が失われていっていることに変わりはありません。

これは確実に日本経済にダメージとなります。消費税による経済へのダメージの議論をしていますが、消費税どころではないと思います。

例えば、約4兆円、それがそのまま転嫁されれば、電気料金は25%くらい上がることになると思います。今はそれだけ上がっていませんが、25%相当上がる部分は国として見た場合に確実にそのダメージを受けることになります。

ただ、一般の人は「家庭の電気料金が今どうなっているのか」くらいを見て、「これくらいだったら大丈夫かな」という認識が多いと思います。

一番心配なのは、それよりも産業に影響が出て、産業の競争力が失われることです。それでも海外に出ていける企業はまだいいのですが、海外に出ていけない中小企業のようなところは、それだけ負担が大きくなると利益が出なくなり、事業をやめなければなりません。それによってまた雇用が失われるのです。そのような流れが、まだあまり顕在化していませんが、徐々に出てくることになると思います。関西だけでも最終的には2から3万人くらいの雇用喪失につながるようなレベルと推計されます。

化石燃料の追加燃料費増が数年続けば経済への影響が明らかに出てきます。気づいたときには家庭の電気代ではなくて、雇用が失われて所得がなくなっていた、という状況が一番危険です。ですから、気づいたときには遅かったではなくて、その前に対応を取って、電気料金が上がらないように手を打っていく必要があると思います。

最近の議論で問題だと思うのは、電力会社を悪者にして「高い給料をもらっているから、人件費を削減すれば電気料金の値上げは避けられる」というような間違ったメッセージが一部で発せられていることです。

燃料費と労務費は比率が全然違うので、労務費をどれだけ削減しても燃料費は賄えず、解決にはならないのです。しかも、労務費を削減し過ぎれば、それも日本経済全体にまわり回ってきます。労務費を削減し過ぎれば、消費がそこから落ちてきますから、経済全体にとってむしろ悪影響になってもくるので、根本的な解決策にならないのです。

国民の目をそこに向けて、何となくそこをたたけば電気料金を抑制できて、原子力が停まっている分も賄えるかのようなメッセージは、全く誤っていると思います。ガスと石油の消費量がものすごく増えているので、そこを抑えていかないことには結局は雇用が失われ、私たちが気づいたときに「こんなはずではなかったのに」ということになりかねません。

 


原発が止まってしまうと、自給率はほとんどゼロに近い


── 今後の日本のエネルギーのあり方をどうお考えでしょうか。


秋元 やはり「3E+S」(安定供給、経済性、環境適合性+安全性)が非常に重要で、エネルギーの安全保障や安定供給は確保しないといけないし、経済性の部分を見なければならないと思います。そして、環境、温暖化問題も重要です。そのへんのバランスをどう取っていくか。どこかに偏ることは非常に危険で、ベストミックスというベストはつくれないにしても、良いバランスをどう取っていくのかが重要です。もちろん安全・安心がコアにないといけないので、そこをおろそかにしてはすべて成り立ちません。

S(安全性)というと、原発のリスクに焦点が当たりますが、やはり全てが絡み合っている問題です。全体のバランスをどうやってうまく図っていくのかを私たちは考えなければなりません。

エネルギーはそれぞれが長所、短所を持っています。原子力にも長所、短所がある。再生可能エネルギーも良いところもあるが、コストが高く、安定供給に問題があるし、化石燃料は温暖化問題があったり、石油やガスに関しては燃料費が高い。それぞれ長所、短所があるので、それぞれを補いながら全体のミックスをうまく図っていく。それによって私たちの満足感を高めて、将来の世代の雇用も高める、ということが必要だと思います。

何かを排除するのではなく、いかにバランスを取っていくのかを考える必要があると思います。そうしたときに私個人としては、原子力はこれからも非常に重要な役割を果たすと思うし、果たさなければならないと思います。

日本は燃料資源がほとんどない国です。今、原発が止まってしまうと、自給率はほとんどゼロに近いような状況になるのですから、エネルギー・セキュリティという意味でも非常に危ない状況です。

シェールガスも期待されていますが、まだ将来先ですし、仮に入ってきたとしてもそんなに安い価格で入ってくるのか相当疑問です。

そのようなことを考えると、やはり原子力を安全性を高めながらうまく使っていくことが必要だと思います。それによって温暖化問題にも経済にも対応し、エネルギー安全保障にも寄与する。結果として我々の現在から将来にかけての幸福度を高めていくことにつながります。

「将来世代の子供や孫のことを考えてないんですか」と批判をされることがあるのですが、子供や孫のことを考えるからこそ、エネルギーがもつさまざまな良いところをミックスして考えていかなければならない。そういった流れの中で原子力をもう一度冷静に見ていくことが必要だと思っています。

 

3E+S

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