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── 福島の事故から1年半経ちますが、食品に含まれる放射能問題やがれきの広域処理をめぐる議論をどうご覧になられていましたか。

柴田 放射線の影響については、ICRP(国際放射線防護委員会)がレポートを出しており、例えば基本になる値は1シーベルト(=1000ミリシーベルト)でおよそ5%がんで死亡のリスクが増えるとしています。それを基準に考えて、放射線によって増加するリスクがどれぐらいかは計算できます。
放射線だけでなく、さまざまなものががんの原因になります。放射線も被ばくが多ければ人体への影響も大きくなりますが、現在言われているようなリスクの範囲ではそれほど大きな影響はないのではないかと思います。
研究者によっては「ICRPは過小評価だ」という人もいるため、それが一般の方の過剰反応の原因の一つになっているのかもしれません。しかし、「ICRPが過小評価である」ということをきっちり裏付けるようなデータはありません。そのため、ICRPを基本におけば、そう大きな間違いはないだろうと私は考えています。
例えば、福島の車が来たら「帰れ」というような話や、京都の五山の送り火での薪の問題がありました。大勢の人が同じように感じているのかどうかはわかりませんが、極端なものをメディアが取り上げるため、騒がれてしまうのかもしれません。



国の基準値に沿っていれば、がれきの受け入れに心配はいらない


── 岩手・宮城で発生するがれきの放射線の安全性はどうなのでしょうか。


柴田 いわゆる産業廃棄物として扱える放射能レベルは、国の基準でキログラム当たり8000ベクレルです。放射性物質を含んだがれきが大量にあれば、そのすぐそばの放射線量は高くなるとは思いますが、ある程度処理した後で、土でカバーすれば十分値は低くなります。実際に処分するときには、がれきの中の放射能レベルによって、遮蔽が必要なら上に土などでカバーするし、必要がなければあまりかぶせないということになるのだと思います。
実際に処分するがれきを受け入れたところで放射能を測定して、可燃物であれば燃やします。焼却して灰になると放射性物質が濃縮され、放射能レベルが高くなるため、最終処分として埋めるなどの処理をするときには、そのレベルが8000ベクレルを超えないように気をつけなくてはなりません。
岩手・宮城のがれきの場合、濃縮されたとしてもレベルはまだまだ低いと思います。焼却したときに何倍に濃縮されるかは、がれきの種類にもよるかもしれませんが、ある程度の遮へいをすれば十分低い放射線量になります。実際に宮城や岩手のがれきをそのまま測定したとしても、かなり低いレベルでしょう。
ですから、福島以外のがれきを受け入れることに対しては、何の心配もしなくていいと思います。
放射線のリスクと、それ以外の一般の生活の中でのいろいろなリスクがありますが、それらのリスクの大きさの比較、知識が教育の中でも全く扱われてこなかったし、メディアなどもそんなには出していません。そのようなことがあるから、結局「放射線は怖い」となってしまうのです。
たばこが健康に悪いのはみんな知っています。定量的に知っているかどうかは別として、奥さんがたばこは健康に悪いと思いながら旦那さんに「絶対やめろ」とは言わずに生活しているようなものです。リスクがあることを知りつつ生活しているのです。
放射線の場合は、今までそういう教育を受けてこなかったから、どれぐらいのリスクがあるかということには全く知識がありません。そのため、非常に大きなリスクかもしれないと思えば、非常にわずかな放射線でも下げないと危ないと思ってしまう方が大勢いてもおかしくはないですね。
ですから、岩手・宮城のがれきに関しては、実際に処理しようとしている放射能のレベルからすれば、実際の影響はほとんどないというのが現実だと思います。


── 事故以来、さまざまな放射線・放射能の数値が出てきていますが、その数値が実際に危険かどうかは、どのように判断したらよいのでしょうか。


柴田 結局、さまざまなリスクを自分が受容できるかどうかで判断するしかないですね。国が、リスクがここまでだったら安全、ここからは安全ではないなどということは説明していないし、説明しても皆さんが納得するかどうかもわかりません。そうすると、結局、そのリスクの大きさを見て、それを自分が受容できるかどうかということになると思います。
放射線のリスクは、ICRPが言っているように、1シーベルトの被ばくで5%がんによる死亡が増えるということですが、それに対してほかのリスクがどうかです。
例えば、がんの場合には1シーベルトは一生での被ばくということになっています。一生での被ばくで5%がんが増えるリスクがあるということです。一方、日本人の場合には、そもそも30%の人ががんで亡くなります。放射線による被ばくによって、がんのリスクが30%から35%になるのは、明らかに大きな影響だと思います。
1シーベルトの被ばくは大きいと思いますが、これが一生で100ミリシーベルトという値になれば、がんのリスクは0.5%です。30%の人ががんで亡くなるときに30.5%に増えるのを非常に危険だと思うかどうかだと思います。



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提供:柴田德思氏


それ以外のリスクで見ると、例えば厚生労働省のホームページにありますが、毎年10万人当たりの死亡率が出ています。がんは10万人当たり270人ぐらいです。最新のデータでは、もう少し増えているかもわかりません。これは、1000人当たりにすると、毎年3人ぐらいになります。
それから、不慮の事故、例えば交通事故、お年寄りなどがのどを詰まらせて死ぬ、階段から落ちて亡くなるなど、いろいろな事故を全て合わせると、大体1万人に3人ぐらいのリスクです。



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死亡率の年次推移(提供:柴田德思氏)



そのほかに、職業的なリスクは、一次産業の農業、林業、漁業、それから一次産業ではありませんが、鉱山で働く人の鉱業、これらでは毎年1000人に1人くらいが事故で亡くなっています。それ以外の職業、二次産業、三次産業は大体1万人に1人くらいのリスクがあります。
ですから、放射線のリスクは政府が安全なレベルと言っている年間1ミリシーベルトは、1シーベルトで5%のがんのリスクとすると、1年間で1ミリシーベルトであれば、10万人当たりにすると1年間で5人ぐらいのがんのリスクになります。不慮の事故の中で、例えば転倒で亡くなる人は10万人に5人ぐらいですから、年間1ミリシーベルトは、それぐらいのリスクと同じになります。
もっと大きなリスクでは、例えばたばこのリスクがあります。たばこのリスクで、非喫煙者と喫煙者のがんになる割合は、非喫煙者が1とすると、喫煙者は1.6倍です。0.6倍がたばこのせいです。これを放射線のリスクに換算すると、30ミリシーベルトぐらい浴びたことと同じになります。



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放射線のリスクとたばこのリスクの比較(提供:柴田德思氏)



ですから今、除染の基準を「年間1ミリシーベルトを超えるところを除染する」と政府は言っていますが、たばこを吸っている人は放射線を30ミリシーベルト毎年浴びているのと同じことになります。
受動喫煙は、家の中で1人が吸っていると、ほかの人は吸わなくてもがんになる影響が増えるということで、これは大体2割と言われています。30ミリシーベルトの2割だと、6ミリシーベルトの被ばくに換算されます。
受動喫煙自体のリスクを普通は気にしませんが、放射線を年間6ミリシーベルトというと、皆さん非常に心配するのではないかと思います。
それから、肥満がどれぐらいのリスクかというと、体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割ったBMIという指標で測ります。150センチの人で、大体50キロで標準で、BMI21か22です。これが5増えると、まだ誤差が少し大きいですが、年間10ミリシーベルトぐらいの被ばくに相当します。



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肥満とがんのリスク(提供:柴田德思氏)



このように他のリスクと比べると、放射線の被ばくは年間何ミリシーベルトでどれぐらいのリスクがあるか、比較して考えることができます。ですから「どれぐらいの数字だったら安全」という言い方はできず、「どこまでのリスクであれば自分が受容するか」ということになると思います。



ベクレルを測っただけでは、自分への被ばくの勘定はできない


── 天然と人工の放射性物質や内部被ばくと外部被ばくのリスクはどのように比較できますか。


柴田 「自然の放射線はいいが、人工の放射線は悪い」と本当に思っている人は少ないと思います。私は福島などでいろいろな話をしていますが、彼らが言うのは「天然のものは今までずっと被ばくしてきたから、それはそれでいいが、それに何も足し算をさせられる必要はないだろう」ということです。福島第一原子力発電所の事故がなければ、増えなかったわけですから、そういう意味で彼らの気持ちとして「少しでも被ばくが増えたらかなわない」というのはあると思います。
つまり、事故によって追加的な被ばくは避けたいというようなことだと思います。
それから、ベクレルという単位がわからないとよく言われます。ベクレルは放射能の量(強さ)を表す単位です。例えば、天然の石の中にどれぐらい入っているかというと、カリウム40という放射性元素はキログラム当たり100~700ベクレルぐらい、花崗岩では500~1600ベクレルぐらい入っています。



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大地から(提供:柴田德思氏)



それが倍になる、3倍になるということになれば、多少被ばくが増えるわけですが、1ベクレルや2ベクレルと言ってもあまり意味がありません。
また、ベクレルと人体への影響を表す単位のシーベルトとは、直接結びつきません。
1ベクレルとは、1秒間に1回放射性壊変が起こることで、原子核の種類によりますが、セシウムの場合は、ガンマ線とベータ線が1個ずつ出ます。1個出ても四方八方に出ますから、自分のほうに向かってこなければ被ばくになりません。
ずっと放射線が出続けると、ある部分は自分のほうに向かってくることになりますが、遠くにいると自分に当たる確率は小さくなります。近くにいれば、半分は自分のほうに出て来て、半分は自分のほうに来ないということになります。結局、同じベクレル数の放射性物質があったとしても、1ベクレルという数値だけではなく、そこからの距離などが決まらないと、被ばくの大きさはわかりません。ですから、ベクレルを測っただけでは自分に対する被ばくは勘定できないのです。
ただし、体の中に放射性物質が入った場合(内部被ばく)は、1ベクレルのものが入れば、その1ベクレルのものが体の中でどんな動きをするかは元素によって変わります。セシウムとカリウムでも違いますが、その場合には1ベクレル飲んでしまうと、どのくらいの被ばくになるか計算することができます。これは、日本の場合、原子力安全委員会の資料の中にありますし、ICRPなども1ベクレル当たりどのくらいの被ばくになるか、セシウム137だったら何シーベルトという換算係数が公表されています。



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単位と自然放射線(提供:柴田德思氏)



内部被ばくは、このようにベクレルとシーベルトが結びつきやすいのですが、外部被ばくになるとベクレルとシーベルトは結びつきにくいのです。やはり系統だった教育を受けないと、きちんと理解できません。
今まで放射線の教育というのはゼロでしたから、そこを改善していくことと、放射線について知っている人たちの知識をいかに広げていくかによって、少しずつ改善されていくと思います。



── 今後、復興に向けて発生する放射線に関わる課題にはどのようなものがありますか。



柴田 風評被害は大きな影響をもちますが、なかなか難しく、簡単には解決できそうもありません。
また、放射線だけでなくて、実際に津波を体験した人たちのトラウマ、いわゆる精神的な障害がずっと長く続くというのがあると思います。こういったことに対してどのような仕組みで支援していくかが、非常に大きな問題だと思います。
チェルノブイリでは、住民の精神的な障害に対して、その地域の小学校や中学校の先生がケアをして、専門家が先生たちを支援するというような仕組みがあるようです。そういう仕組みが日本にも必要だと思います。
それから福島の場合は、線量のレベルによりますが、線量のレベルの高いところは結局、除染をしないと住めないところがどうしても出てきます。除染廃棄物の仮置き場や中間貯蔵の問題が出てきます。それらを早く整備していかなければなりません。
セシウムは、土の中ではあまり動かないという性質があるようです。ですから、穴を掘って除染した泥を埋めておいて、上をカバーしておけば、ほとんど心配ないと思います。もちろん安全のために、周りに穴を掘って細いパイプを入れて地下水を取り、監視すれば、地下水に移動しているかどうかすぐわかります。こうした監視をきちんとすれば、仮置き場や中間貯蔵施設をつくっても、それが非常に危険なものではないと思います。
ただ、「中間貯蔵施設があるところのそばの畑は危ないんじゃないか」というような風評被害が出てしまう可能性はあります。そこが難しいところだとは思いますが、実際には安全上ほとんど問題ありません。ですから、中間貯蔵施設の場所を早く決めて、除染を急がないと、復興に差し支えてしまうと思います。



放射線・放射能は教育システムの中で教えていく必要がある



── 被災地の一日も早い復興のために放射線に関する国民一人ひとりの理解を進めるためには何が必要でしょうか。



柴田 一般の人が一番気にするのは、やはりリスクだと思います。放射線は、原子核から出てくるのですから、根源的なところは物理の話です。これは理科教育などに依存する部分もあるとは思いますが、一般の人は別に物理学的な内容を知りたがっているわけではありません。知りたいのは、放射線の影響がどう出てくるかということです。
自然の放射線には、宇宙線、大地の中の放射性物質から来る放射線があります。土の中には、カリウムがあります。窒素・リン酸・カリが肥料の3要素ですから、どうしても必要なわけです。
そのカリウムの中に、わずかですが、カリウム40という放射性のものが入っています。植物はみんなカリウムを含んでおり、放射性物質を持っているのです。家畜、牛や豚も草を食べて育つため、体の中に放射性物質を持っています。 植物や牛、豚などを食べるから、私たち人間も体内に放射性物質を持っているわけです。
これらの自然界から受ける被ばくが、日本の場合、年間1.5ミリシーベルトになり、それに加えて医療での被ばくになります。
自然の放射線は体全体への被ばくです。医療被ばくは、例えば、肺のエックス線診断だったら肺だけに被ばくすることなので、全身被ばくとは少し違いますが、それを一応全身に見立てるような計算の方法があります。その方法から見ると、日本の医療被ばくは世界で一番高く、年間2ミリシーベルトから3ミリシーベルトぐらいだと思います。
日本人は医療被ばくなどを入れると、全体では年間4ミリシーベルトくらいの被ばくをしています。それに対して1割や2割くらいの増加であれば、ほとんど問題はないということになります。
放射線をやはり教育のシステムの中で理解していくことがないと、国民全体が理解するようにはなかなかなりません。少し時間はかかりますが、そこが最初でしょうね。
それから、リスクのことを知っている人たちが知りたいと思っている人に伝えていく、こうしたことを広げていくことも大切ではないでしょうか。



(2012年8月15日)

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